REINA ISLAND

WITH SAYUMIN

王宮の食堂はざわめいていた。 王宮に仕える様々な役目の人たち、王宮敷地内の宿舎に住む外国人技術者達、その他この国の政府関係者で王宮に良く出入りしている人たちが食堂内でいくつかのグループを作っては好きな話をしていた。既に給仕たちが各テーブルに…

STOP OVERTIME WORK

さゆみんがこの国に帰ってきて半月ほどが経過していた。 この国のもうひとりのプリンセス。そしてもうひとりのさゆみんの巫女。 彼女がこの国に降り立った日、俊弥が感じた波乱の予感。 しかしこの2週間ほどは思いのほか平穏な日々が続いていた。王宮の中で…

ON THE BED

「今日はあたしもこの部屋で寝る」俊弥が立ち去った後、ベッドに戻ろうとするレイナにさゆみんがそう告げた。その言葉を聞いて心なしかレイナの表情が明るくなる。 「ひさしぶりやね、さゆと一緒に寝るの」レイナはそう言って自分のベッドにもぐりこんだ。 …

TYPHOON

「入れ」 レイナの部屋のドアが開き、中からアサミが顔を出した。 中に入った俊弥と入れ替わりに王宮お付の医師が部屋を出て行った。 俊弥はその医師とは顔見知りだった。ロケット発射施設レインボー7で俊弥が怪我をした後、何度か怪我をした部分の消毒なん…

DISASTER PREVENTION

「そっちの枠とって、枠」王(ワン)が脚立の上から俊弥に声をかけた。 「どれ?これ?」慣れない俊弥は王宮の建物の外壁近くに置いてある資材を前にすぐに必要なものが見つけられない。 「あー、それ、その青っぽいやつ」 これか、俊弥はプラスチック製らしき…

TYPHOON INCOMING

翼に日の丸を描いたB777が薄い排気を引きながら離陸した。 俊弥は飛行機の後姿が徐々に小さくなり、やがて肉眼で捉えられなくなるまで黙って追っていた。ふうっと大きく息を吐き出した俊弥はとなりで同じ様に空を見ているレイナに声をかけた。 「さて、帰り…

FAREWELL

「わざわざ見送りに来んでもええのに」圭は一行を見回した。 「ほんとにお世話になりましたあ。特にレイナちゃん」裕子はそう言ってレイナを抱きしめた。週末のレイナ国際空港は出国する人々、ほとんどが外国からの観光客で少しばかりの賑わいを見せていた。…

2nd PRINCESS

「で、何をもめてたの?」俊弥はレイナ、さゆみん、どちらへともなく聞いた。 「だから、さゆが」レイナが説明しようとしたが、それを遮ってさゆみんがすっと俊弥の前に立った。 「このお部屋はあなたがお使いになっているそうですね?」 「あ、ああ、そうだ…

SAYU INVADING

「つまり、お前は子供の頃のレイナに日本で会ったってことか?」ミキティは目の前に座る俊弥の瞳をじっと見つめた。 「俺のつたない記憶を信じるなら。あの子は…」 「なんだ?」 「あの時はレナと名乗っていた。まだ自分の名前がちゃんと言えなかったのか、…

SAYU RETURNS

「あ!」レイナが不意に後ろを振り返った。 海の方向を見ると旅客機が一機、低い高度を飛んでいる。 多分レイナ国際空港への到着機だろう。 レイナは無言で飛んでいる飛行機を目で追った。「レイナちゃん、どうしたん?」裕子が不思議そうに聞く。 レイナは…

MEMORIES

「なんか昨日は結局わけわかんなくなっちまったな」ミキティはエスプレッソに少し口をつけ、すぐに苦そうな顔をしてテーブルに置いた。 俊弥とミキティは経済産業省ビルの高層階にある見晴らしの良いカフェで窓際のテーブルに座っていた。 昼休みまで1時間ほ…

LONG TIME NO SEE

「へえ、これはまた東洋風だわね」圭は目の前の大きな門を見て感嘆していた。 たしか香港に旅行した時、これと似たような寺院を見たことがある。これは仏教寺院なのだろうか? 「このお寺はさゆみんを祭る、この国の伝統的な宗教のお寺っちゃね」レイナはそ…

SECRET

コンコン! キャメイの執務室のドアを叩く音。 キャメイは気づかずにデスク上のパソコンの画面を見入っていた。午前10時。いつ通り自分のオフィスに入って1時間ほど経った後の事だ。今日は珍しく一切の会議が入っておらず、紅茶を飲みながらのんびりと溜まっ…

MIDNIGHT DREAM

「母さん、入るよ」圭と裕子の部屋の外から俊弥が声をかけた。 パーティはカラオケ大会に突入し、頃合を見て抜け出してきたのだ。 キャメイやレイナも食堂を抜け出し、レイナの部屋に行ってしまった。今日はキャメイがレイナの部屋に泊まっていくらしい。 「…

WELCOME PARTY 3

「えっと、トシヤのお母さんとおば様、よくレイナ王国にいらっしゃいました」適当に食事が進んだ頃、不意にレイナが圭と裕子に話しかけた。 「姫、姫」キャメイがレイナに目配せする。 「なんね?」レイナはキャメイの意図がわからずきょとんとしている。 「…

WELCOME PARTY 2

「あの?」ミキティは圭の顔をまじまじと見た。 「何?」と圭。 「お母様はレイナ姫のことをご存知なんですか?」 「だからガイドブックで」圭はにこやかに笑いながら返した。 「それだけ?」ミキティもにこやかに笑っていたが、目には鋭い光が宿っていた。 …

WELCOME PARTY 1

「トシヤ?」 レイナの声だ。王宮の食堂で俊弥が振り向くとレイナがにこやかに笑いながら立っていた。 と言っても何か無理に笑っている感じもある。 「今日お昼にトシヤのオフィスに行ったっちゃ」 はて?俊弥は首を捻った。 「今日は学校が午前中で終わりだ…

UNEXPECTED VISTOR

「悪かったな」 「ん」 俊弥はミキティの言葉に短く反応した。 「もう少しゆっくり話を聞きたいな」 「うん」二人は空港の旅客ターミナルビルへやってきていた。 昼食をまだ摂っていなかった俊弥がミキティを誘ったのだ。ターミナルビル内はどちらかといえば…

REINA

ラプターの着陸を見届けると、ミキティは屋上を離れ、下へと降り始めた。 「どこ行くの?」 「もっと近くで見る」 ミキティはそれだけ言ってずんずんと階段を下りて行く。 俊弥は半分あきれ顔で後をついていった。「作業車両がいるから気をつけろ」ミキティ…

RAPTOR

「こっちだ」 空港に着くとミキティは俊弥の先に立ってずんずんと歩いていった。車は政府関係者専用の駐車スペースに止めてある。 ミキティは一般客用のターミナルビルには入らず、しばらく外を歩いて別の建物に入っていった。 当然のごとく入り口で警備員に…

LADY MIKITTY

経済産業庁ビルの1階に高層階用高速エレベーターが静かに停止した。 エレベーターの扉が開くと、ロビーの冷たい空気とほんの少し気温が高かったエレベーター内の空気が混ざり合う。 シースルーの高速エレベーターは同じ様に冷房していても直射日光を浴びてほ…

TELEPHONE CALL

コンコン! ドアをノックする音にキャメイはすぐに反応した。 「YES,PLEASE」 しかし反応が無い。 「PLEASE COME IN」 「わしや、寺田」日本語でしゃべりながら、男がドアを開けた。 「あらテラダさん」キャメイも日本語で返す。 「どうぞ、入って下さいな」…

PINK ENERGY

「レイナ」俊弥はそう言ったきり、後の言葉が続かなかった。 レイナは白い水着を着て立っていた。 ただ水着を着ているだけではない。首から数珠の様に見える石というか珠を束ねたおおきな首飾りをぶら下げている。両の手首にも。「トシヤ、パソコンの方を向…

BOAT

「これがデジタルデータリンク?」ミキティはセンチュリーランドの倉庫から黒い箱を取り出した。ミキティに尋ねられた乗員はおどおどしながら答えた。 「は、はい。でも船長や主任管制官の許可無しに持ち出されては」 「スタンリーの許可なら後で取るよ。こ…

200Km

「ちょっと待って」スタンリーが皆に指示を出した直後に寺田が皆の作業を押しとめた。 「おい、いきなりなんだ。あんた達がシステムを入れ替えた方が良いと言うから」スタンリーは気色ばんだ声を出した。 「ここの管制システム必要に最低限必要な人数は?」…

RECOVERY

センチュリーランドの船橋上部のテラスでは、招待客達が昇り始めた朝日を眺めていた。 ロケット打ち上げから既に十数分が経過していた。 ロケット打ち上げ、花火、そして南太平洋に昇る美しい朝日、招待客達は十分に満足していた。「さて、そろそろ中に戻る…

LAUNCH

ジリリリリリ けたたましいベルの音にレイナは飛び起きた!!いつの間にかソファの上で眠っていた。見ると目の前のテーブルの上でいかにも目覚まし時計という感じのアンティークな時計が全身を震わせていた。「うーん」ミキティがだるそうな声を出しながら手…

DIGITAL MAZE

『T MINUS 5 HOURS 10MINUTES AND COUNTDOWN』発射へのカウントダウンは続いていた。 それを聞き流しながら、俊弥は目の前のPCの画面を眺めて何かを考え込んでいた。 少し離れて同じテーブルを囲む寺田も同じ状態だった。 「少し休みませんか?今は比較プロ…

HACKING

『T MINUS 7 HOURS 30MINUTES AND COUNTDOWN』「7時間か」センチュリーランドの発射管制室の隅のテーブルに座った寺田が呟いた。 「短いですね」俊弥が借り物のノートPCで中の仕様書を読みながら応える。 『これは?』俊弥は同じテーブルを囲んで座っている…

WIRED

「つまりケーブルの切断は偽装で、本当の目的はシステムへの不正アクセスかもしれないってこと」俊弥は部屋中の面々の顔を眺めながら言った。 「不正アクセスって?」レイナがけげんな顔をする。 「まあ色々。ロケットの発射に関するデータを盗み出すとか、…