ANOTHER WORLD


『10機撃墜、次のステージに移行します』
機械的な女性の声に桃子ははっと目を覚ました。

目の前には『Next Stage』の文字。
さきほどと同じゲーム機のカプセルの中だ。
今、一瞬眠っていた?どのくらいだろう?

ゲームは続いているみたいだし、自分は撃墜されていないみたいだから、多分ほんの少しだけ気が遠くなったように感じただけなのだろう。

ゲームのスクリーンは真夏の南の海の様子からぼんやりと違う風景に移り変わっている様だった。

あれ?何?

桃子は自分が握るコントロールレバーに少し違和感を感じた。
それだけではない、自分が乗るカプセルの内部全体にだ。

少しくすんだ色・・・このカプセルに乗り込んだ時、自分が座るシートやレバー・ペダル類は比較的明るい色の樹脂製だった。それなのに・・・
今はグレー基調で部分的には金属製の光を放っている。何か本物の乗り物の操縦装置のようなリアルな感じ。

外の景色は冷たい色をしている。
海は暗く真冬の様だ。

そういえば・・・
周りに他の機体がいない。

無意識に目の前のパネルに手が伸び、いくつのかスイッチを押す。
「光学センサースキャン開始、電子センサーパッシブモード」
なぜだろう?誰に教わったわけでもないのに、そんな言葉が口をついて出る。


やっぱり何もいないか・・・
そう思った瞬間に目の前の全周スクリーンに小さなウィンドウが開いた。

何かいる!

飛行機?
見た目、大型の旅客機のようなものが飛んでいる。
外装が若干有機的に感じられる色合いと表面処理になっているが、形は旅客機そのもの。
そして・・・煙?
煙を吐きながら旋回。

何?桃子が理解できない状況のまま、別のウィンドウがスクリーンに開く。
旅客機らしきものの後方に3機の別の機体。大きさは前方の大型機よりも小さい。

後方の3機から何か光の筋が飛び出す。
急旋回してかわす大型機。攻撃を受けている?

「ズーム」無意識に桃子の口が飛び出す言葉。
それに反応し、各ウィンドウが目標をズームアップする。

子ども?
大型機の窓が大きくズームされ、その中に子どもらしき顔が見えた。

ダメ!!

桃子は左手でスラストレバーを押し込み自分の機体を加速させる。
火器選択、GUN

ほとんど無意識に手元のスイッチを操作し、兵装を選択、大型機を追いかける3機のうち1機に照準を合わせる。

短く発射ボタンを押す。
一瞬にしてターゲットが火を噴く。

桃子機の接近に気づいた残り2機が大きく散開する。

大型機から大きく離れた1機をロック。
ミサイルを発射。

巧みな旋回でミサイルを回避する敵機。
しかしその動きを読んでいたかの様に、敵機が逃げる先にレーザー機銃を掃射する桃子。

2機目、撃墜!

3機目は?
うしろ!

機体をひねり急降下させる桃子。

目の前の景色が激しく回り、平衡感覚を喪失しそうになる。

ここ!敵機が真後ろに来た瞬間、桃子の機体からまっすぐ後方に光の矢が飛んだ。

火を噴く敵機。

桃子は機体を立て直し大型機を探す。

見つけた。
大型機は低空を飛んでいた。右の翼から煙が出ている。
桃子は大型機に向けて自機を降下させた。

右翼の煙は少し薄くなってきたようにも見えた。
飛び方自体は安定している。

全周スクリーンに映る大型機の窓をズームアップ表示にする。
窓に映る子どもらしき顔。
こちらに向かって手を振っている。

自分が助けたことが判ったのだろうか?

それにしてもこれは・・・ゲームにしてはあまりにも・・・
桃子はそう考えた瞬間にふさぎ込む様に顔を下に伏せた。
体が小刻みに震える。
そして涙が溢れ出し頬を伝わる。

手のひらから伝わるコックピット内のコンソールの感触。
全周スクリーンの映像の緻密さ。
今自分がいるのは・・・

コックピットの中でふさぎこんだままの桃子の耳に新たな警報音が飛び込んだ。
新しい敵?
もう嫌・・

2機の小型機が大型機と桃子の機体に接近していた。
桃子はその2機が間近に迫るまで顔を伏せたままだった。