WELCOME PARTY 2


「あの?」ミキティは圭の顔をまじまじと見た。
「何?」と圭。
「お母様はレイナ姫のことをご存知なんですか?」
「だからガイドブックで」圭はにこやかに笑いながら返した。
「それだけ?」ミキティもにこやかに笑っていたが、目には鋭い光が宿っていた。
「ええ。まさかこんなに近くでお会いできるとは思ってなかったけど。お姫様に会うなんて初めてだからちょっと興奮してるかしら」圭はそう言いながら、目でレイナと俊弥の様子を追いかけていた。

「ところで」今度は裕子が質問し始めた。
「俊弥はあのお姫様と…、なんだかとっても仲良さそうだけど」
「姫がミムラさんに懐いてる感じですかねえ」キャメイがうふふと笑いながら答える。
「お姫様ってもう少し隔離された別世界に居るのかと思っていたから、ちょっと意外やねえ」裕子は何にかわからないが、感心した様に言う。
「小さな国ですから、王室も国民と接する機会は多いんです。ミムラさんは政府主管の事業に技術者としてお招きしたので、この王宮内の宿舎で生活して頂いています」
「たしか」ミキティが補足する。
「彼が最初にこの国に到着した時に、レイナが向かえに行ったと聞いたが?」
「はい」とキャメイ
「私がお迎えに上がる予定だったんですが、ちょっと手が離せなくなって。たまたま学校がお休みだったレイナに頼んだんです。ここに新しい人が来るってことで、レイナは喜んで迎えに行ってくれましたけど」
「お姫様がねえ」裕子はぼそりとつぶやく。それに気づいたキャメイは裕子の目を見つめながら尋ねた。
「おかしいですか?」
裕子は少し困惑した顔で答える。
「うーん、おかしくは無いけど。私達の感覚だと、王室の方々が私達と普通に接してるのが不思議で」
「私とミキティも一応王族なんですよ?みんなそれぞれの仕事を持って普通に生活しています。確かに少し特別な存在ですけど、みんなから離れて生活しているわけでも無いんです」

「何話してるね?」レイナと俊弥がテーブルに戻ってきた。
一通り準備が終わり、俊弥が自分の席に、そして当然の様にその隣の席にレイナが座った。
「ふう、準備完了みたいだよ。腹減ったー」俊弥が緊張感の無い声で、テーブルの上に盛られた料理をひとつまみ、つまみ食いしようとした。
「こら、俊弥、行儀悪い。こんなところで恥じかかせないで」圭がぴしゃりと俊弥を叱り付けた。

俊弥はばつが悪そうな顔をし、テーブルを囲む一同に笑みがこぼれる。
そうこうしている間に寺田がやってきて、空いている席に座り込んだ。
「ここはキレイな女の人が多くてええなあ」
寺田はそう言ってテーブルを囲む女性陣の顔を見た。
「テラダさんはいつもお上手ですね」キャメイがにこやかに返した。

「で?何話してたの?」再びレイナ。
「レイナとミムラがラブラブだって話をだな」ミキティが珍しくいたずらっぽい顔をしながらレイナと俊弥を見た。

「確かにラブラブやな。うらやましいわあ」寺田がそれに乗る。
「そうかなあ?ねえ?」レイナは照れた様に笑い、俊弥の方を見た。俊弥は返答に窮した。
「ラブラブって…」
そうつぶやいた俊弥は隣のアサミが鋭い視線を自分に向けているのに気づいた。
またこの子か、この子の前でこの手の冗談はかんべんしてくれよ、俊弥はそう言いたいところだった。
「ラブラブー、ラブラブー」レイナは上機嫌でばかみたいにその言葉を繰り返す。
アサミはますますむむっという顔になって行く。

「そちらのお嬢さんは?」圭がアサミの方を見て尋ねた。
アサミは圭を見て自ら答えた。
「レイナ姫の護衛を担当させて頂いているアサミです」
圭はああという顔をした。

「この子のどこがええのん、レイナ姫」裕子が俊弥を指差しながら問いかけた。
レイナはうーんという顔をしたが、すぐに周りに響く様な大きな声で答えた。
「お兄ちゃんみたいやけん!」

するとテーブルがああ、そうだよねえという空気になる。
俊弥はなんとも居心地の悪い思いに、この場を逃げ出したくなった。


「みなさん」キャメイがすっと立ち上がった。英語で話しはじめる。
「とりあえずお料理も飲み物も準備できたみたいですから、始めましょう」
食堂にいる全ての人間がキャメイに注目した。
キャメイシャンパンの入ったグラスを持っていた。
「今日はミムラさんのお母様とおば様がレイナ王国にいらしてくれました。新しいお客様をみなさんで歓迎しましょう。みなさんお好きな飲み物をお持ちになって立ち上がっていただけますか?」
それを聞いてみんながぞろぞろと立ち上がる。

「えーっとそれではみなさん、今日は急遽お集まり頂いてありがとうございます。お料理もお酒も色々そろってます。カラオケとかも用意したので、みなさん楽しんでくださいね。では乾杯!」キャメイの声にあわせて、みながたかだかとグラスを上げ、思い思いに乾杯して口をつけた。

それから座り込んで、まずは腹ごしらえを始めた。

俊弥達のテーブルではアサミが料理を皆に取り分けて配っていた。
「ありがとう」俊弥がそう言ったが、アサミは無言だった。ただし他のメンバーにはアサミはにこやかに対応していた。

「あんま気にすんな。あいつ、結構ツンデレだから」ミキティがなぜか面白そうに言った。
ツンデレなんて言葉を知ってるんだ。俊弥はそんなことを思いながら、そう言うミキティはどうなんだろうと思っていた。アサミにデレがあるとも思えないし…

それにしても変な事になっちまったな。俊弥は同じテーブルを囲むメンツを見ながら、軽くため息をついた。