WELCOME PARTY 3


「えっと、トシヤのお母さんとおば様、よくレイナ王国にいらっしゃいました」適当に食事が進んだ頃、不意にレイナが圭と裕子に話しかけた。
「姫、姫」キャメイがレイナに目配せする。
「なんね?」レイナはキャメイの意図がわからずきょとんとしている。
「トシヤって呼び捨ては失礼ですよ」
それを聞いて裕子がぷっと吹き出した。
「あははは。ええよええよ。ちょっと頼りない子やけど、仲か良うしてあげてくださいね、レイナ姫」
「ちょっと、裕子おばちゃん、おばちゃんこそ失礼だよ、その言い方は」俊弥があわてて裕子をさえぎる。
「なによ?固い子やねえ?気がきかんでしょう?この子」裕子はテーブルを囲む誰にともなく言う。
何人かがくすくすと笑い出した。
レイナは俊弥の方に自分の椅子を寄せ、よりかかりながら笑っている。
ただし意味がわかっているのかは怪しい。

「姉ちゃん、うちの子なんやからあんまり言わんといてよ」圭が本気かどうかよくわからない様子で抗議してみせる。それがまた周りの笑いを誘う。

「あー、でも本当にこの子、ご迷惑かけてませんか?お姫様の邪魔をしてないと良いのですけど」圭は殊勝な顔でレイナを見た。

「トシヤには色々助けられてます。本当に」レイナは急にまじめな顔になり、凛とした声で答えた。
「できるだけ長くこの国に居て欲しいと思っています」レイナはそう言いながら圭の表情を探る様に見た。

「この子、お役に立ってます?」
「はい、とっても」圭の問いにレイナは間髪を入れずに答えた。
「いつも本当に助けて頂いています」

「そうですか」圭は裕子と顔を見合わせた。
「この子がねえ」
「なんだよ」俊弥は少しばつが悪そうに母を見た。

「この子が少しでもお役に立てているなら、どうぞ使ってやってください」圭はそう言うと立ち上がって頭を下げた。
レイナも立ち上がり、圭に向かって深々と頭を下げる。

「えっと、ごあいさつはそのあたりで、楽しみましょう」キャメイが二人に座る様に促した。


「始まったで」寺田が食堂の一角を指差した。他のテーブルのメンバーが食堂の真ん中に置いたカラオケ機の周りにあつまり、なにやら歌を歌い始めた。周り中大喝采が始まる。

「あらあら、面白そうやね」裕子が立ち上がり、その輪に入って行く。
「相変わらずだなあ、裕子おばちゃんは」俊弥はその様子を見て、少し肩の力が抜けたのか笑い始めた。
「トシヤ?」レイナが呼ぶ。
「何?」
「口の周りにソースついたまま」レイナがそう言ってナプキンで俊弥の口を拭き始めた。
さすがにそれには俊弥も恥ずかしかったのか、急に真っ赤になった。
「あらあら」圭はそんな二人の様子をにやにやしながら見ていた。一方でレイナの隣に座ったアサミはいつもどおりに俊弥をにらみつけていた。
ミキティはどちらかといえば、カラオケ大会の方に気が向いている様子だ。


「ところでレイナさん」圭は真顔になってレイナを見た。
「あなたのお父様、つまりこの国の国王はここにはいらっしゃらないの?」
「国王は」レイナが何かを言う前にキャメイが代わりに答え始めた。
ミムラさんがこの国にいらした日の翌日から外遊に出られています」
「あら、まあ、残念ね…」
「そうそう、初日に会ったっきり、俺もお会いしてないんだよ。ずいぶん長いこと外遊してるんだね?」俊弥はそう言ってレイナを見た。
レイナはうーんという顔をして、俊弥を見返した。
「今、アメリカに行ってて、なんか難しい交渉をしてるって。アメリカの後にはヨーロッパにも行くって」

「そう。お父様はお優しい方なの?」圭が聞いた。

「うーん」レイナは首を捻って考え込んだ。その様子があまりにもマンガちっくで、俊弥はクスクスと笑い始めた。
「なんね?」
「い、いや、なんでも…、くくく」
「もう、感じ悪いっちゃねー」
「で?お父様は?」俊弥は母と同じ質問を繰り返す。

「うーん、優しいといえば優しいけど、最近はかなり厳しかね。良くお前はこの国の王女なんだからとかそんなこと言われると」
レイナはむむーという顔をして俊弥を見る。
それがツボに入ったのか、俊弥はさらに笑い始める。

「もう、トシヤー」
レイナは自分の椅子を俊弥のすぐ横につけて、体ごとぶつけるようにして何度も肩を当てた。

「ちょっと、姫、はしたない。お客様の前ですよ」見かねてアサミがレイナを俊弥から引き剥がした。

「あらあら、なるほどねえ」裕子が二人の様子を見ながら口を開いた。
「この二人はいつもこんななのかしら?」裕子はキャメイや寺田を見た。
「そうやな、こんな感じやな。三村はんがうらやましいでホンマに」寺田はニヤニヤしながら言う。
俊弥は俊弥でそんなからかいには慣れてしまったのか、どこふく風で、レイナの椅子を掴んで、自分の方に引き戻した。今度はアサミがムッという顔をする。

「アサミちゃん、レイナは返してもらうよ」俊弥は上機嫌なのか、笑いながらアサミにウインクして見せた。
「お前調子に乗ってると」
そんなアサミを遮って、今度はレイナが笑い出す。俊弥とアサミに挟まれて本当にうれしそうに。

「なるほど」そんな二人の姿を見て圭は呟いた。
「あの子も役に立ってはいるようね」