UNEXPECTED VISTOR


「悪かったな」
「ん」
俊弥はミキティの言葉に短く反応した。
「もう少しゆっくり話を聞きたいな」
「うん」

二人は空港の旅客ターミナルビルへやってきていた。
昼食をまだ摂っていなかった俊弥がミキティを誘ったのだ。

ターミナルビル内はどちらかといえば閑散としていた。
二人は他の一般客にまぎれてターミナルビルのレストランエリアへと向かう。

「あそこにしよう」ミキティがある店を指差した。
「空港のレストランにしては安くて美味いものが食える」ミキティはそう言って、俊弥の腕を取り、引っ張る様に歩き始めた。

「あーいたいた、トシ君いたよ!」
突然、大きな声が周囲に響いた。日本語。女性、というかおばさんの声。この声は。
俊弥は声の主を探した。
斜め前方に二人組のおばさん。この二人は。

「ちょっとあんた、ちゃんと時間伝えとっただろ。迎えに来てないのかと思ったがね」二人のうち一人が俊弥とミキティに近づきながら大声のままで話しかける。

「誰?」ミキティは怪訝な顔で俊弥を見た。
俊弥は近づいてくる二人組を見ながら呆然とした表情をしている。

「母さん…」
「え?」ミキティはその言葉に二人組のおばさん達をしげしげと見つめる。

「まあ、ええやないの圭ちゃん、こうして会えたんやし」もうひとりのおばさんが関西弁で他方をなだめる。赤い派手なシャツにジーンズ、茶髪でスタイルも悪く無い。圭ちゃんと呼ばれた方も、歳の割にはまあ美人な方なのだろう。

「裕子おばちゃんまで、なんで?」俊弥は派手な方のおばさんを見て再度絶句する。
「なんでって、今日着くってメールしたやろが?」裕子と呼ばれた方がそう説明。

「メール?」
「3日前かな?」
「3日前?」
俊弥は自分の携帯電話を取り出し、メールの検索を始めた。
「あー、これか」

「何?あんた知らなかったん?じゃあなんでここにおるんよ?」今度は圭が怪訝な顔で俊弥に聞く。
「母さん、いや、今日はたまたま」

「ってゆーかさあ、この女の子は誰?ん?」裕子はミキティをじろじろと嘗め回す様に見た。
ミキティは裕子の迫力に気圧されたのか、ペコリと会釈をした。
「あら、まあ可愛い子だねえ。あんたのこれ?」圭がそう言って小指を立てて見せた。
「ち、違うよ、失礼だろ。この人はこっちで少し世話になってる人で」
「三村さんのお母様とおば様ですか?」ミキティは丁寧な口調で口を開いた。
ミキティと申します。レイナ王国の政府関係の仕事をしています。ようこそレイナ王国へ」ミキティは自身が軍人であることはぼかして、自己紹介をした。
「俊弥の母の圭です。こっちは姉の裕子。俊弥が南の島とかで生活するって言うんでちょっと様子を見に来たんですけどね。そうですか、こんなキレイな人とお付き合いさせて頂いてるんですか」
「だから、違うって言ってるだろ。失礼だから、やめてくれ」俊弥は顔を真っ赤にして圭に抗議した。
ミキティはその様子を見てくすりと笑った。

「ところでお母様たちはどちらにお泊りの予定ですか?」ミキティは再び丁寧な口調と笑顔で圭と裕子に接した。
圭は持っていたかばんの中から何枚かの紙を取り出した。
「えーっとここのホテルに泊まる予定なんだけどね。ホントはホテルまで連れて行って欲しくて俊弥にメールしておいたんじゃが。ホテルに着いたら後は勝手にするから、ほっといてくれてええけどね」
ミキティはその紙を受け取ると、少し考えてから自分の携帯電話を取り出し、どこかに電話を始めた。

「ちょっとちょっとあんた」ミキティが電話をする間、裕子が俊弥を少し離れたところに引っ張っていった。
「ほんとにあの子とつきあっとらんの?」
俊弥は少しぶすっとした顔で答えた。
「だから違うって、彼女はこの国の王室の関係者で」
「王室?」裕子は意味がよくわからない様子で問い返した。
「だから、王様の一族だよ」
「その王室とあんたになんの関係があるの?」
「あとでゆっくり話すよ」



「ちょっといいですか?」ミキティがひそひそと話をしている俊弥と裕子に向かって声をかけた。
二人はミキティと圭のもとに戻る。
「えっと、ホテルの方はキャンセルさせて頂きました」
ミキティが告げる。圭と裕子はえっという顔したが、ミキティは構わずに続けた。
「王宮の宿舎に部屋を確保しました。俊弥さんが住んでいるのと同じ宿舎ですので、そちらの方がよろしいかと思いまして」

「あらまあ、そんなことしてもらっていいの?」圭が恐縮した様に尋ねた。
ミキティはにこりと笑った。
「大丈夫ですよ。部屋は結構空いてますし、みなさんゲストは大歓迎してくれると思いますよ」
「でも王宮ってゆうた?王宮って王様の宮殿のことやろ?」裕子が尋ねる。
「はい、俊弥さんもそちらで暮らしていますので」

圭と裕子はお互いに顔を見合わせた。さすがに少し驚いている様だ。

「ところで母さん達、食事は?」俊弥が聞いた。
「うーん」裕子は自分のお腹をさすりながら少し考えてから答えた。
「飛行機の中で食べたから、まだ大丈夫やけど、なあ?」
「うん、そうだね」圭も同意した。

「じゃあ、まずは車のところに行きましょう」ミキティはそう言って、圭が引いていたキャリーバッグを代わりに引いて先導し始めた。
俊弥は仕方なく、裕子の持っていたバッグを同じ様に持ってあとをついて歩き始めた。

「あのさ?メシは?」ミキティに小さな声でつぶやく。
「王宮でなんか作ってもらおう。それまで我慢してくれ」
ミキティは笑いながら言う。よく考えれば我慢してくれと頼むのは俊弥の方なのだが、ミキティは涼しい顔で一行を先導して歩いた。


俺はこの子を誤解しているのかな?ミキティを見ながら、俊弥はそんな風に思っていた。