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「つまりケーブルの切断は偽装で、本当の目的はシステムへの不正アクセスかもしれないってこと」俊弥は部屋中の面々の顔を眺めながら言った。
不正アクセスって?」レイナがけげんな顔をする。
「まあ色々。ロケットの発射に関するデータを盗み出すとか、何か妨害のためのプログラムを仕込むとか」
「ウィルスとか、えっと…、トロイの…」キャメイがなんとか言葉を思い出そうとする。
「木馬」寺田が助け舟を出した。
「そう、トロイの木馬!そういうものを仕掛けたかもしれないと?」

「単に可能性だが。ケーブルの皮膜を破って、中の電線に直接別のコンピュータを繋げば、中を流れるデータを覗いたり、必要なら偽データを送ったり、そういうことも可能」俊弥はそう言って寺田の顔を見た。
「そうやな。単なる可能性や」

「想像力過多だな。だいたいなんでわざわざケーブルを破く必要がある?レインボー7にはシステムアクセス用の端末はたくさんあるんじゃないか?」ミキティがばかばかしいという感じで肩をすくめた。
しかしキャメイはうーんという感じで考え込んでいた。
「なんだよ?キャメイ
「一応、レインボー7内にある発射システムアクセス用端末は全てセキュリティ付きの専用室に設置されています。生体認証付きのセキュリティを採用していますから、そう簡単に誰でも入ることは」
「プログラムやデータの改変可能性についての調査は?」寺田が聞いた。
「いえ、そういうのは。何をすれば調べられますか?」
キャメイの問いに寺田と俊弥は顔を見合わせた。

「うちの連中を何人か呼んでログのチェックをさせます?確かここの制御システムに関わってるメンバーが」俊弥は寺田に提案した。
「そうやな。それはやろう。キャメイさん、レイナ本島に連絡できるか?ここはケータイが使えんやろ?」
「通信室からなら。一般の電話回線に接続を依頼することもできますが」
「そしたら、ヘリを用意してくれ。3人ほどここに連れてきたい。あとここのシステムの管理者に頼んで、俺と三村はんとあと3人分のアクセスアカウントを至急作らせて欲しい」
「あ、はい」
「寺田さん、ついでに職場から端末を運んでもらった方が」俊弥が二人の会話に割り込む。
「端末?」
「少なくとも僕の端末には色々とこーいうことに使えるツールが入ってるんで」
「そうやな」
「寺田さん、三村さん、一緒にこの船のシステム制御室に来て頂けますか?」
キャメイの要請に二人は立ち上がり、キャメイの後について部屋を出て行った。


「やれやれ、なんか大変や感じじゃな」取り残された岩さんは一度立ち上がり、部屋の隅から新しいグラスを3つ持ってきてテーブルに置いた。
そうして寺田と俊弥が飲み残したシャンパンをグラスに注ぐ。

「お嬢さんたち、一緒に飲まんかね?ロケット発射まではかなり時間がある。もうわしらがどうこうできる状況でも無いしな」
「レイナはいただくっちゃ」レイナはすぐにグラスを掴んだ。
キャメイの前だと止められるので、少し飲んでみたいのを我慢していたのだ。
「おいレイナ」ミキティがレイナをたしなめようとしたが、まあいいかと肩をすくめ、自分も岩さんの横に座り込みグラスを取った。

「それじゃ、乾杯!」岩さんの声にあわせて3人はグラスを軽くぶつけあった。
レイナは注がれたシャンパンを一気に飲み干した。
「おいしい!」そう言って自分でおかわりを注ぐ。
「レイナ、ちょっと飲むのはいいけど、ほどほどにしとけよ。酔っ払いのお姫様が人前に出られちゃ困るからな」
「きゃはは、大丈夫ぅー」
こいつ、もう酔っ払ったのか?ミキティはちょっと怒った様な顔でレイナを睨んだ。

「あの兄さんが行ってしまったからお姫様は寂しいんじゃろ」岩さんは上機嫌でシャンパンを口に運ぶ。
「別にそんなんじゃ無いっちゃ」
「確かによくからんないな」ミキティがレイナの顔を覗き込みながら言う。
「何ね?」
「あの男の何がいいんだ?お前気を許しすぎだぞ」
「そんなことなかね」レイナは顔を赤くしながら反論する。
「トシヤはレイナのともだち。それだけ」
「別にあいつが悪い奴と思わないけどさ…」ミキティもグラスにシャンパンのおかわりを注ぎ、一気に飲み干す。
「レイナがなんでそんなにあいつを気に入ってるのかさっぱりわからないし。それにお前はこの国の姫なんだから…」

「わかってるっちゃ」レイナは少し潤んだ瞳でシャンパングラスを自分の顔の前にかざして眺めていた。
「心配しなくても大丈夫。確かにトシヤはちょっと特別だけど、それは…」
「それは?」
レイナはしばし沈黙した。
「レイナ?」
「ごめん、そのうち話す。岩さん?トランプのゲームとかできる?」
「ん?ああ、まあそれなりに」
「じゃ、3人でなんかやるっちゃ、確かそこのクローゼットの引き出しに入ってるはず」
「しょーがねえな。手加減しねえぞ」ミキティはなぜかやる気まんまんの顔で立ち上がり、クローゼットの中を探し始めた。