NEW GAME


「それでは操作方法の説明をしますのでよく聞いてくださいね」係員の言葉にはーいと黄色い声が一斉に響く

平日の午後二時、都内のアミューズメント施設の一角を借り切っての撮影
カメラや照明のスタッフを見た一般客が何事かという顔で見ているが、すぐに興味を失って去っていく
TVにあまり出ていないアイドルのDVD撮影なんてこんなものだ
桃子は係員の説明をうわの空で聞きながら、軽くため息をついた
「ちょっと嗣氏、カメラ回ってるよ、ボーっとしないの」声が入らないように胸元のピンマイクを手で押さえながらとなりに居た佐紀が小声でつぶやく
同時に桃子の背中に手を回し軽くつっつく
「うぇ!」予想外に低い声を上げて驚く桃子
すかさずまあさが「えー」と声を上げる
「キャハ」両手の人差し指をほっぺたにあてて、全身で可愛らしいポーズを大げさに取る桃子
「何してんの、桃〜」すかさず突っ込みを入れるまあさ
苦笑いでそれを見る雅と千奈美
「だってキャプがあ」桃子は抗議の声を上げる
「嗣氏はやめてよね」カメラが別のメンバーに向いた瞬間、桃子は小声で佐紀に本当の抗議をする
「桃がボケっとしてるからだよ」すました顔で佐紀が答える
このインチキロリキャラ女!いつかケリつけてやる(怒)
と本気とも悪ふざけとも自分でもよくわからない事を考えながら桃子は施設の係員が説明しているカプセル状の機械に注意を戻した

「では二組に別れてさっそく搭乗してもらいましょう」
今日はゆりなと梨沙子はいない
代わりに℃-uteから5人のメンバーが同じ現場に来ていた

チームわけはそのままBerryz℃-ute
舞美と同じチームが良かったな、桃子はそんなことを考えながらスタッフに言われるがままにカプセル状のゲーム機に乗り込んだ
ってゆーか、操作方法わかんないんだけど
係員の説明をろくに聞いて無かったがなんとかなるさと戦闘機のコックピット風のシートに座り込む
前方に上下左右ほぼ半球状のスクリーンが設置され、南国の島の様な景色が映し出される
「すごーい」桃子は思わず声を上げたが、それにかぶせる様にカプセル内のスピーカーから他のメンバーの驚嘆の声が聞えて来た
そういえば同じチームの人と会話可能っと言ってたっけ
「ちょっとすごいよこれ」千奈美の興奮した声が聞える
「ホントだね〜ちょっとテンション上げるかも」最近は落ち着いた感じに見える雅も興奮気味だ
確かにすごいけど…なんだろうこの感じ…
「みなさんシートベルト装着してください」係員の声にあわててベルトを装着する
「では10秒後にスタートします」
係員の声と同時に目の前のスクリーンに大きなカウントダウンの数字が表示される
10,9,8,7…4,3,2,1
「キャッ」
いきなり背中がシートに押しつけれる軽いGを感じた
カプセルを回転させ上を向かせる事で加速Gを演出しているのだ
目の前に広がる南国の空と海
「すご!」桃子は再び驚嘆の声を上げた

全周スクリーン上をぐるりと見回すとあちらこちらに青や赤の三角形のマーク。
赤は敵、青は味方?

「きゃあああああああああああああああ」
誰かの叫び声が響く。
キャプテン?
「何これ、目が回るよ」
あれだ!青いマークが付与された戦闘機の映像を桃子が見つける。
吹き出し付で「シミズ」と表示された機体がきりもみをしている。

「清水さん、一度コントロールレバーから手を離して下さい。自動的に安定しますから」
撮影スタッフの声が割り込む。ゲームの外側からメンバーに連絡が通じるらしい。
その指示に素直に従ったらしく、清水機はきりもみをやめ水平飛行に戻る。

「ちょっと誰よ、撃ってくるの!」まあさの声。

視界の隅で何かが光る。
無意識に反応する桃子の体。
コントロールレバーに小さく力をかけて機体のコースを変える。
目の前に飛び出す敵。

親指がレバーについた赤いボタンを押す。
目の前でストロボのような閃光。


「ちょっとこっちこないでー」またまあさの声。
どこ?機体を大きく旋回させながら周りの状況把握に入る桃子。

あれだ!赤いマークが青いマークを追い回してるのが目に入る。
加速する桃子機。
「まあさ右に逃げて」
桃子が自分で驚くほど低い声でまあさに指示を出す。
素直に従うまあさ。
その動きに釣られて桃子の前に飛び出す敵機。機体には「ウメダ」の吹き出し
ごめんね、エリカ。
敵機をロック、発射。
ミサイル様のモノが桃子の機体から飛び出す。

何か光るものを吹き出しながら左にきりもみの様な動きをして逃げる梅田機。
あれって、なんて言ってたっけ?ミサイルに対するおとりとかなんとか。

だったら。
手元のスイッチを操作し、照準マークの横の文字が「GUN」に変わるのを確認する。
要は当てればいいんでしょ。

逃げる梅田機の動きを予測し、タイミングを計る桃子。
そっちじゃないよ、こっち。
瞬時に親指が反応。

桃子機から放たれた光の矢が梅田機を貫く。

堕ちて行く梅田機。撃墜されると15秒間戦闘に参加できなくなるんだっけ。

「桃、うしろ」
キャプの声。
コントロールレバーと足元のペダルを操作し、機体を降下させながら反転する桃子。
機体のすぐそばを光の束が通過する。

千聖?」
体をひねり、左側面に並ぶ敵機を確認する。
千聖機が左に反転する。
左足でペダルを蹴飛ばし、同じ方向に反転する桃子。
その動きを見透かすように機体を急上昇させ、桃子を前に飛び出させる千聖
だったら!
桃子はパワーを絞り、エアブレーキを全開にして減速。
わざと機体を失速させる。

その動きについていけず前に出る千聖機。
照準マークと千聖機が重なる一瞬を狙ってガンを撃つ桃子。

千聖機が火を噴き墜ちていく。

「凄いね、桃子。また墜したね?」
いつの間にかキャプテン、佐紀が横に飛んでいた。

あれ?
これって・・・どこかで・・・

桃子の意識が急に遠くなった。