WELCOME PARTY 1


「トシヤ?」
レイナの声だ。王宮の食堂で俊弥が振り向くとレイナがにこやかに笑いながら立っていた。
と言っても何か無理に笑っている感じもある。
「今日お昼にトシヤのオフィスに行ったっちゃ」
はて?俊弥は首を捻った。
「今日は学校が午前中で終わりだったから、トシヤとご飯食べようと思って」
「ああ、えっと」
そこでレイナがニヒヒと笑って後ろから俊弥の腰に手を回してしがみつくようにしながら体を横に出して俊弥の顔を覗き込んだ。
「テラダさんに聞いたけん」
俊弥はん?という顔のまま黙っている。
「ミキねえと出かけたって」

「あ、ああ」
「ふーん」
「な、何?」
「デート?」
全く、なんでもどいつもこいつも…
「別にそんなんじゃないよ」
俊弥は思わず語気を荒げた。
レイナはびくりとして俊弥の腰に回した両手を離した。急にレイナの顔に不安げな表情が宿る。
「あ、いや、フツーの話してただけだから」俊弥は右手をレイナの頭に乗せ、髪の毛をくしゃくしゃと触った。
一国の姫君相手に失礼な態度だが、なんとなくその行動が自然に出てしまった。
レイナの顔から不安な様子が消え、おそらくは意図的にコミカルな表情を作っていた。
「ミキねえとお似合いだと思うっちゃけどねー」
「レイナは俺とミキティをくっつけたいの?」
「うーん、どーかなー?」レイナはまたもニヒヒと笑って見せた。
「それなりに仲良くしてくれるほうがレイナはうれしいよ」
俊弥はその言葉に自分の首の後ろを右手で掴みながら首をかしげた。
「別に仲悪くは無いんだけど」

「ちょっと料理長を手伝ってくるっちゃ」レイナはそう言うと、厨房の方に消えていった。

レイナと入れ替わりにがやがやとたくさんの人が食堂に入ってきた。
その中心には圭と裕子、すなわち俊弥の母とおばがいる。
寺田や俊弥の同僚の王(ワン)、キャメイミキティ、アサミ、その他俊弥の顔見知りの衛兵や外国人技術者達。
それにこの国で金属加工やロケットの溶接まで手がけるベテラン日本人職人、太田岩五郎と北村健之助の姿も見える。キャメイが呼んだのだろうか?

「ほんとにみなさん、ありがとうございます」裕子がそれほど上手くは無いが、なんとか通じる英語でそんな風に話しているのが聞こえた。確か圭の方は全く英語は駄目なはずだが、俊弥のおば裕子は年齢の割にはチャレンジ精神が旺盛で、英会話教室とかに通っていたはずだ。
実際にしゃべれる様になる人間はそんなに多くは無いのだが、裕子の英語はそんなに悪くは無かった。

「そろそろお料理が運ばれてくるはずなので、お好きなテーブルでくつろいでくださいな」キャメイがにこやかに応じる。
「男の方々はキッチンに行って、料理を運ぶのを手伝ってくださいな」キャメイに言われて男達は次々と厨房の方に歩いていった。
俺もと俊弥が行きかけたが、キャメイが呼び止めた。
ミムラさんは今日は主役ですから、のんびり座っていてください」
「いや、俺も手伝うよ」
「ええから、座っとき」寺田が俊弥を制止し、勝手知ったる様子で厨房に入って行く。

仕方なく俊弥は一番近くの8席ほどに囲まれたテーブルを選び、椅子に腰を下ろした。
圭と裕子が続けて同じテーブルに座り、キャメイが圭と裕子の間に座った。
ミキティとアサミはキャメイ、圭、裕子の向かい側に座る俊弥を囲む様に座った。
しかしキャメイがアサミになにやら目配せをするとアサミは俊弥の隣を一席空けて横に移動した。


「トシヤー、ちょっと助けてー」レイナの声だ。
見るとレイナが大きなお皿を抱えてよろよろと歩いてくる。俊弥はすぐに立ち上がり、その皿を受け取り、レイナと共にテーブルまで運んだ。
皿の上には香ばしい匂いのする肉料理がたっぷりと盛られている。

ミキティキャメイも立ち上がって、その大皿をテーブルの真ん中に置いた。
続けて男達がサラダやら、南国風の焼き飯やら、色々な料理を運んできて、いくつかあるテーブルの上があっという間に料理でいっぱいなった。

さらに王宮付きの給仕たちがワゴンに様々な飲み物のボトルとグラスを載せて運んできた。

結局俊弥はレイナと共に、料理を運んだり、足りない椅子を運んだりそんな作業で食堂内をうろうろしていた。というより、レイナの後をついてフォローする感じである。正直、圭や裕子の居るテーブルに座り込んで話に付き合うより、レイナを手伝う方が気楽だった。


「ここの夕食はいつもこんな感じなの?」裕子が誰にともなく質問した。
「いつもはセルフサービスで、カフェテリアみたいな感じですね」キャメイが答える。
「今日はお客様がいらしているので、特別です」
「お客様って私たち?」圭が尋ねる。
「はい、新しいお客様や仲間が来た時にこうやってわいわいやるのがここの習慣なんです。みんなお祭り好きなんですわ」
「なんか悪いみたいだねえ、私達のために」
キャメイが言ったとおりみんな好きでやってるから」ミキティが気にしないでという風にフォローする。
「そういえば俊弥さんの歓迎パーティって結局やってないよねえ」さらにミキティが続ける。
「そうなんですよね。早めにやるつもりだったんですけど、色々あったので」キャメイが申し訳無さそうにぺこりと頭を下げた。
アサミはこういう席が苦手なのか、じっと周りの話を聞いていた。

彼女達のテーブルの横を飲み物のワゴンを押す俊弥とレイナが通り過ぎた。仲良く二人で一台のワゴンを押して別のテーブルへと運んで行く。

裕子がその様子をじっと見つめ、口を開いた。
「あのちっちゃい女の子は?なんか俊弥と仲良さそうやね」
「彼女は」キャメイが説明しようとした。
「プリンセスレイナ、この国のお姫様よね?」キャメイの言葉に割ってはいる様に圭が言葉を発した。
裕子は驚いた様に圭のほうを見る。
「圭ちゃん知ってるの?」


「レイナ王国のガイドブックに載っていたの。とっても人気のあるお姫様だって」
圭は俊弥とレイナに視線を向けながらそう答えた。

ガイドブック?確かに載っていたけど、確か二人で見たガイドブックにはとっても小さい写真しか載っていなかった。それにあの女の子は写真とはずいぶん印象違うけど。裕子は妹の様子に少し不思議な感覚を抱いていた。