HOSPITAL
病院、医師と看護士。
深刻そうな表情をした人々。
重い空気。
消毒液の匂い。
なんとなく逃げ出したい思い。
病院に着いた途端、舞波の心にはなんとなく暗く重い感情が流れ込んでいた。
「桃子!」
病室の扉が開くなり、舞波は思わず知らず叫んでいた。
「シー」
Berryz工房キャプテン、清水佐紀が舞波に向かって静かという合図をする。
病室には良く見知ったメンバーたち。
桃子の両親は主治医の話を聞くために病室から離れているらしい。
ベッドに眠る桃子。
特に苦しげな表情はしていない。
「どう・・なってるの?」
舞波が静かにたずねる。
「気が付いたら寝てたの」
千奈美が何事も無いかのような口調で答える。
「寝てた?」
「ちがうよ、気を失ってたんだよ、桃は」
少しキツイ感じで雅が割ってはいる。のほほんとした千奈美に対して本気で怒った様な表情を見せる。
「私達ね、DVDの撮影でゲームのカプセルみたいな奴に乗ってたの。なんか戦闘機を操縦して撃ち合う奴」
佐紀は桃子の寝顔を見ながら説明を始めた。
「最初は桃子凄くてね。℃-uteのメンバーと対戦してたんだけど、もうどんどん相手をやっつけていっちゃうわけ」
「そうそう、凄かったよねー、あれ、天才パイロットいうの?そんな感じー」
あくまでも明るい声の千奈美。
「もう、千奈美ぃ」
まあさのたしなめるような声。
「確かに凄かったんだけどねー」
続けてまあさが呟く。
「急に、ホントに急に桃子の乗ってる飛行機の動きが止まったの」
「止まった?」
佐紀の説明にオウム返しに聞く舞波。
「そう、止まったの。全然しゃべらないし、なんかふざけてるのかと思ったんだけど・・・ゲーム終わっても出てこないからスタッフさんがカプセルを開けたら・・」
「寝てたんだよね」と千奈美。
「うん、寝てたってゆーか、起きないんだよね」まあさが続ける。
「最初は疲れて寝てるのかと思ったけど、まったく起きないから何か変だってことでスタッフさんが病院に連れてきたの」
佐紀の言葉が終わると同時に病室にいた全員の視線が桃子の寝顔に注がれた。
「寝てるの?」舞波は軽く桃子の頬に触れてみた。
「お医者さんによると、フツーに寝てる状態だって。でもなんで起きないのか判らないの」
寝ている?
違う。
なぜだか判らないけど舞波はそんなふうに感じていた。
桃子はここにいるけど、ここにいない。
でも、それならばどこに・・・・
舞波はふと天井を見上げた。
天井には間接照明を利用したモダンなライトがぼんやりと光っている。
その光の中に影!
影はゆらめき、やがてどこかで見たような形に・・・
「桃子?」
「ちょっと舞波?どうしたの?」
舞波に向かって手を伸ばそうとした佐紀にどさりとかかる重み。
佐紀に体を預ける様に倒れこむ舞波。
「舞波!」
「舞波?ちょっと、何これ?」まあさの慌てた声。
「舞波?」佐紀はなんとか舞波の体を支えながら軽くゆすってみる。
「ねえ」雅がそっと口を開く。
「寝てるよ?」
その言葉を聞いた途端に佐紀は舞波の軽い寝息を感じた。
「どう・・なってるの?」
桃子と舞波・・・なんだろう・・これ?
雅は突然眠り始めた舞波の姿に何かを思い出しかけていた。
そういえばあの時、舞波が来た時も変だったな・・・
「は、はは」
乾いた声で小さく笑う千奈美。
努めて明るく振舞っていたつもりの彼女は目の前の出来事に茫然自失の状態だった。
突然の出来事に病室にいるメンバー達はまともに口を開くことができなくなりつつあった。
重い空気。
病院の外には、その空気を打ち破る大きな影が近づきつつあった。