生着替え


熊井ちゃんなの?あれ?マイハマンって…」れいなは自分を助けに来たらしい二人組に混乱していた。

「なんとか間に合ったね」ゆりなは舞波の方を向き、バイザーの内側で笑みをもらした。
「間に合って無いじゃない。田中さん捕まっちゃったし」舞波はほんの3分ほど前の出来事を思い起こしていた。




−数分前−
「バトルスーツ持ってきたでぇ」つんく♂は息を切らしてスタンド席に出るための3階のフロアに上がってきた。大きなトランクを両手に提げている。
「二人とも急いで着替え…」

そう言うつんく♂をゆりなと舞波は醒めた目で見つめていた。
「なんや?どないした?」

「ここで着替えるんですか?」ゆりなは聞いた。
「そうや」
「だって更衣室無いですよ?」
「緊急事態やから」
「嫌です」ゆりなははっきり言い切った。
「大丈夫や」つんく♂はトランクを開け、何かを組み立て始めた。
「なんですか?それ?」
「簡易更衣室や」
そう言ってつんく♂が組み立てたものは、細いパイプをワッカにして、そのワッカに筒状の布をぶら下げたものだった。
「ほれ、このワッカにヒモつけてやな、ヒモの先に吸盤つけて天井にぶら下げる」そう言ってつんく♂は吸盤を天井めがけて投げつけた。
スパーンという小気味良い音と共に吸盤が天井に張り付く。
つんく♂はヒモの長さを調整してちょうどゆりなの体が隠れる高さにワッカを持ってきた。
「ほれ、熊井、この中で着替えや。石村も同じモノ組み立てるからちょい待ち」

「これってスーパージョッキーっていう奴じゃないですか?生着替え…」ゆりなはブツブツ言いながらも天井からぶら下がった筒状の布の中に入り、服を脱ぎ始めた。
つんく♂さん、絶対こっち見ないで下さいね」
「誰が見るかい」つんく♂はそう言いながらもう1セット、生着替えセットを組み立てていた。
「あー!」ゆりなが突然声を上げる。
「な、なんや」つんく♂がゆりなの方を振り返る。
「ほらー、やっぱり見てるじゃないですかあ」ゆりなはわざとらしいしかめっ面でつんく♂を睨む。既に下半身は着替え終わっており、これから上半身を着替えようとしていた。
「ったく、ほれ、石村、できたで。俺は階段の下におるから」
つんく♂はいったん下の階に移動した。

誰もいないフロアで舞波も簡易更衣室?に入った急いで着替えた。

「女の子なんだからもう少し気を遣って欲しいよね?」ゆりなはそう言いながらもなんとなく楽しそうだった。
「よし着替え終了」ゆりなはヘルメットを手に取り、しっかりと被った。
少し遅れて舞波も着替えを完了する。

つんく♂さ〜ん」ゆりなが気の抜けた声でつんく♂に声をかける。
「これ、片付けておいてくださいね」

「ゆりな、行くよ」舞波は真剣な声でゆりなを促す。

ゆりなと舞波はスタンド席の別の入り口の前にそれぞれ立った。
ヘルメットに仕込まれた無線機のスイッチを入れ、お互いの声を確認する。

「テンション上がってきちゃったよ、ふひひ」ゆりながおかしな笑い声で笑う。
まったく、この子は。
でも、しょーがないか…舞波は目をつぶり自分自身に気合を吹き込んだ。

「オッケー、ゆりな行くよ」
「あいよー」
「マイハマン、出撃!」

舞波の声と同時に入り口のドアを開け、中に入る。

2重扉の奥に出るとお互いの位置を確認しステージを見る。誰かが捕まっている。
田中さん?
変な仮面をつけた男が4人。彼らが何者にせよ、止めないと。

とりあえず、
「待ちなさい!!」
舞波はできる限り居丈高に聞える様に声を張り上げた。

侵入者達が舞波とゆりなに気づき、二人を見上げていた。
「ゆりな、戦うよ」舞波は無線でゆりなに伝える。
「あーちょっと待って、あたしにもカッコいいセリフ言わせて」
ゆりなはそう答えると、大声を張り上げた。
「コンサート会場を荒らすなんて、何が目的。我ら正義のエージェントが成敗してくれるわ!!」
正義のエージェントか、もうそれでいいや。舞波は覚悟を決めた。