幻影
空、蒼く広がる空、そして海。
上も下も蒼い世界。
蒼い世界の中に白い雲が点在する。
自分は今空を飛んでいる?
どのくらいの高さなんだろう?
桃子はぼんやりした意識の中で考えていた。
目の前の何かの光。
記号?
何の記号だろう?コンピューターゲームの様な画面が自分の目の前、少し目線を下げたところにある。
自分が座っている場所。ここは操縦席?
アニメか映画で見たような戦闘機の操縦席。
近くに白い雲の筋。自分が乗るのとは別の飛行機が近くを飛んでいる。
突然、目の前が真っ赤に染まる。
正面のディスプレイ上に赤い光が点滅し、何かを警告する様な音があたり一面に満たされる。
回転。空と海が逆さまになる。
煙?近くで何かが爆発する。
何か強い力で体が座席に押し付けられ、目を開けていられなくなる。
景色が回る。
何?
ミサイル?
白い煙の筋が何本も桃子を囲む。
その中をかいくぐって何も無い空間で飛び出す。
急激な方向転換。
無意識に右手が手元のレバーの様なものを握り、何かのスイッチを押す。
目の前に輝く閃光。
眼前に現れた黒い機体が火を噴いて堕ちて行く。
さらにもう一機。
突然、あたりが静かになる。
横に青い機体がよりそうに飛ぶ。
「凄いね、桃子。また墜したね?」
誰だろう?聞き覚えがあるような無い様な声。
あなた?誰?
ぼんやりと蒼い世界が白く染まって行く。
誰かが話す声。さっきとは別の声。
天井?白い天井。
「桃子さん?」
この声・・・・阿久津さん?
桃子は突如、がばりと上体を起こした。
「痛・・」
慌てて右手で額を押さえる。
急に起き上がったせいか、頭が少しクラクラする。
ベッドの上?横を向くと阿久津の顔が見える。
「桃子さん、ゆっくりと横になって。そう・・もう大丈夫ですから」
桃子はようやく自分の置かれた状況を理解した。
病院の屋上、舞波はぼんやりと沈む夕日を眺めていた。
「もう歩き回っても大丈夫と?」
舞波はその声に振り返り、声の主に対して少し険しい表情を見せた。
「怒ってるか、そりゃそうやね」
れいなは舞波に向けて笑顔を作ろうとするがうまくいかなかった。
「いつからなんですか?」
舞波はできるだけ落ち着いた声のトーンでれいなに尋ねた。
「さゆとれいなは・・・・1か月前やったと」
「1か月前?」
「あいつに出会って、力の存在を教えられて・・・気が付いたら自分の力の虜になっとったけん」
「洗脳とかされたんですか?」
舞波の問いにれいなはかぶりを振った。
「よくわからんちゃっけん。自分では自分の意思で動いたつもりでおるけんね」
「自分の意思で、あたし達を攻撃したんですか?」
舞波は詰問調の声を発した。
「確かめたかった。この力の正体。れいな達はただ夢を見ているのか、それとも現実なのか。たった1か月だけど、凄く悩みよった」
れいなは屋上の床を見ながら唇を噛む。
それから顔を起こして舞波を見つめた。
「横アリ、れいな、気づいとったよ、桃子ちゃん達が何かに巻き込まれていたこと。それがあの力に関係あると判ったのはもっと後やけど。桃子ちゃん達がれいな達と同じ力を持ってるなら、ぶつけてみれば何かわかると思った。もしれいな達が勝っていたら、さゆが全力でみんなの体を治すつもりやったけん」
「何かわかりました?」
「何も。ただ・・」
「ただ?」
「阿久津、あいつを信用したらいけんよ。あいつもグレイマスクも同類、そう感じとるよ、れいなは」
結局、よくわからずじまいか・・・舞波は何も出来なかった自分に無力感を感じていた。
「舞波!」
舞波を呼ぶゆりなの声。
舞波とれいなは振り返る。
「ももち、目を覚ましたよ」
ゆりなは少し瞳をうるませていた。
「良かった」
心底ほっとしたようなれいなの声。
「いこっか?桃子ちゃんのところ」
れいなは舞波に手を差し出す。
舞波はその手をぎゅっと掴んだ。
マイハマン第一部【完】