正義の味方2


「コンサート会場からアイドルを誘拐するなんて、何が目的!!」ゆりなはノリノリでサングラスの男を指差した。
ゆりなと舞波の会話はヘルメットから外で待機しているつんく♂の元に送信されている。
ヘルメットにはカメラも仕込まれており、二人が見ている映像もつんく♂の元に送られていた。

「この男、どこかで見たことあるなあ」つんく♂はパソコンのモニターを凝視しながらそう呟いた。「とりあえず関係各所に連絡しとくか」つんく♂は中の様子をモニターしつつも、ケータイでどこかに連絡を始めた。


「その前にいきなりここに押し入って来たあなた方は何者ですかね?できれば名乗って頂きたいのですが」サングラスの男はニヤニヤしながらゆりなに話しかける。その態度に焦りは感じられなかった。

「聞きたいなら聞かせてあげる」ゆりなはまたもノリノリで答えた。
もう余計なことやんなくていいから。舞波は内心そう思いながらゆりなの様子を見ていた。

「我々は悪を断罪する正義の使徒!スッペシャル戦隊、マイハマン!!」無意味なくらい仰々しくポーズを決めるゆりな。
それを見ているサングラスの男、それに少し離れた位置にいる桃子もなんとなく脱力している様に見える。
「マイハマンってどーいう意味だね?」サングラスの男が口を開いた。
バカ、なんで人の名前を勝手に使うのよ。舞波はバイザーの内側からゆりなを睨んだが、ゆりなには伝わなかった。それでも、さすがにメンバーのひとりが舞波という名前だからとは言わずに別の答えを探し出した。
「いや〜、その、千葉にあるネズミさんの国が好きなんで」
またしても脱力する様なセリフ。
「ああ、舞浜ってことか」サングラスの男が察し良くフォローしてくれた。
「そうそう舞浜舞浜」
ゆりなは腰に手を当てうれしそうに言う。
室内がビミョーに和んだ空気の中、舞波が動いた。

身を沈め、床を蹴り、一瞬にしてサングラスの男の懐に飛び込む。
「ぐっ」舞波の拳が男のみぞおちあたりにめり込み、男の顔が苦痛にゆがむのがサングラス越しにも見て取れた。
「桃子ちゃん、今のうちに外に逃げて」
桃子はその言葉を聞いて部屋の外に逃げ出した。

よし、これで存分に・・・舞波はそう思い男に向けて左足で蹴りを繰り出した。
バシ!
だが男は舞波の渾身の蹴りを右手で受け止めた。
舞波はすばやく足を戻し、右腕をフック気味に振る。左腕でそれをガードする男。

この男、フツーじゃない。
単に格闘技とかで鍛えているだけじゃない。
常人離れした自分の動きをきちんと追って対処している。

舞波は自然にファイティングポーズを取り、少しだけ男との間に間合いを取った。

一歩、舞波が足を踏み出すと、サングラスの男が一歩下がる。
舞波はジリジリと前に出て次第にサングラスの男が後退する。
ピンと張り詰めた空気。

「1号避けて!」突然の大声。ゆりな?
ボイスチェンジャーで少し周波数を変えているので、分かりにくかったが、その声に舞波は反応し横に跳んだ。

その横を何かが高速にすり抜けた。

「つぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」
素っ頓狂な叫び声を上げながら、ゆりなの体が宙を舞い、サングラスの男にドロップキックを浴びせた。

ぐしゃり。
なんとも言えない嫌な音が聞えた。

ゆりなのキックに跳ね飛ばされた男が後ろの壁に激突し、そのまま床に倒れ込む。

「ちょっといきなり無茶しないでよ、巻き込まれるところだったでしょ」舞波はノープランなゆりなに抗議する。

「えへへへ、でも奇襲に成功したよ」ゆりなはバイザーの下から指で鼻を掻いた。
「だいたい1号ってなんなのよ」
「いや、二人居るからさ。1号2号って呼びやすいじゃん。あたしは2号でいいからさ」
またも脱力。
舞波は真剣に戦ってるつもりが少しばからしくさえ思えてきた。

とは言え、

「ちょっと、2号、どうでもいいけどやりすぎだよ」舞波は床に崩れる様に倒れているサングラスの男を指差しながら言った。確かに名前で呼び合うと正体がばれるし、1号2号っていうのはシンプルかもしれない。そう思って2号という呼び方を使わせてもらうことにした。
「いやーなんか無茶苦茶強そうだったから、このおじさん」ゆりなはまたも鼻を掻きながら答える。
「まさか、死んで無いよね。いくら悪者でも・・・」舞波がそう言った瞬間に、サングラスの男がすっと立ち上がった。
瞬間、室内で緊張感が戻る。二人並んでファイティングポーズを取る舞波とゆりな。

「まさか、あなた一体?」舞波が困惑しながら声を出す。

「実に興味深いですね。これほどの覚醒者が二人も・・・さてさて、私は狙いを誤ってしまったか」
「何言ってるのさ」ゆりなが少し前に出て間を詰める。

「とりあえず今日のところは引き下がっておきますか。またいずれお二人にはお会いできると思いますよ」サングラスの男はそう言うと、近くの窓に向かって突進した。
ガシャン。サンシェイドと窓ガラスを打ち破って男の体が建物の外に出た。



窓ガラスの割れる音、建物を一人で出た桃子は音に気づき上を見上げた。
長いコートを着たサングラスの男が3階の窓から飛び出し、そのまま真下にスタッと着地する。

「あなた」桃子が驚愕の目で男を見る。
「嗣永!」つんく♂が桃子の後ろから走りよった。
つんく♂さん」桃子がつんく♂に気づくと同時に、男が高く跳んだ。
桃子とつんく♂を飛び越して反対側へ。
「お前は」つんく♂はそのサングラスの男を見て何かを言いかけたが、それよりも早く男は二人の視界から姿を消していた。