ISLAND TOUR 2

ヘリは離陸すると、ほんの2,3分で海上に出た。
ヘリの上からは島の海岸線の様子がよくわかる。王宮からほど近い海岸はなだらかな砂浜が続き、砂浜のそばにはいくつものホテルらしき建物がそそり立っていた。
「ワイキキビーチみたいだな」俊弥はハンバーガーにかじりつきながらぼそりと呟いた。「そらそーや、ここはワイキキをモデルに開発されとるからな」寺田が俊弥の呟きを聞きつけて言葉をつないだ。
「どのホテルもキレイなもんやろ。いっちゃん古いホテルでもまだ築後15年程度らしいわ。それ以前は広い道路もでかい建物もなんもなかったらしいで」
「へー、そうなんだ」俊弥は確かめる様にキャメイの顔を見た。
「ああ、15年前だと君はまだ赤ちゃんだよね」
「ええと、はい。でもこの国の歴史はちゃんと知ってますよ。」キャメイはにこやかに笑いながら説明を始めた。
「レイナ王国は25年前までは、農業と漁業が中心の島国でした。王国といっても実際は共和制に近く、近隣の島々の部族が協力しあってひとつの国の形を作っていたのです。このセントレイナ島を中心に大小100くらいの島で構成されています。そうですね、ハワイのお話が出たので比べると、レイナ王国に属する島を全部集めると面積はだいたいハワイ諸島の半分くらいです。8,000平方kmくらいでしょうか。」
8,000平方km...と言われても俊弥にはピンと来なかった。ハワイの半分と言われると結構大きい気もする。自分はそんな国の存在をつい最近まで知らなかったわけだが。
「25年前に何かあったのかい?」
「この国の経済を一変させる発見があったのです。今向かっているところがまさにその場所なんですけど。セントレイナ島の西方約150kmの場所に海底油田の一部が見つかったんです。ちょうどその近くにレイナ王国に属する小さな島があって」
「誰かが石油を掘り当てた?」
アメリカさんや」俊弥の問いに寺田が答えた。
アメリカ...」
「はい、そのとおりです。」キャメイがうなずいた。「アメリカの石油会社の調査船が発見しました。油田自体はこの近辺の海底の地下奥深くに横たわっているんですが、その一部が比較的浅いところまで上がってきていて、低コストで汲み上げられることがわかったんです。」
「なるほどね、石油を掘り当てて一気にお金持ちの国になったわけだ。」
「そんなに簡単では無かったです。」俊弥の言葉にキャメイはまるで自分がその場にいたかのような口調で返した。
アメリカの会社に採掘権を与えて石油採掘をするかどうか、当時レイナ王国を二分して議論がされたそうです。当時の国王は最初は石油など掘らずに静かで平和な国のままにしようと考えていたそうで、各島の部族の長達もそれに賛成していたらしいのです。」
「でも結果的には石油を採掘することになった?」
「はい。日本の方にはなじみが無いと思いますが、この国は当時アメリカからのお客様が中心の小さなリゾート地でもありました。リゾート地といっても今みたいに海岸沿いにホテルがたくさん並んでいる様な場所ではなくて、小さなロッジにごく限られた方が長めのバカンスにいらっしゃる様な。」
「当時この島にお泊りなっていた方の中に、アメリカの科学者の方がいらっしゃったそうです。その方は地球の環境問題を研究されていて。当時既にオゾンホールの破壊とか温暖化現象に注目を始めていたんです。」
「温暖化....それが石油採掘と?」
「わが国は大小さまざまな島の集合体です。小さな島の中にはほとんど平地で海の上にほんの少しだけせり出しているだけの島もあります。こういった島はいずれ海中に没する運命です。」
「海面上昇ね....」
「そうです。レイナ王国だけでなく、南太平洋のいくつかの島国はともに同じ問題を抱えています。残念ながらこれらの国々の力では、温暖化による海面上昇を食い止めることはできません。」
「うーん、で、それと石油採掘の関係は?」俊弥は再び同じことを尋ねた。
「要するに資金がいるってことや。この国を守るためにな」寺田が口を挟む。
キャメイは寺田の言葉にうなずいた。
「はい、その通りです。このまま温暖化が進めば100年後には本当に水没してしまう島が出てくるかもしれません。島全部が水没しなくても、10年、20年程度でも大きな環境変化が起こり、住み辛い場所になっていく可能性もあります。そのために多少の環境破壊を我慢しても島に護岸を作ったり、レイナ島のような比較的大きめの島に埋め立て地を増やしたりして、人が住める場所を増やしているのです。」
「埋め立て?」
「ちょうど見えてきました。あれを見てください。」キャメイが窓の外を指差した。そこには海岸付近に多くの建設車両が集まり、大型の埋め立て工事らしき事をしているのが見て取れた。
「普通の埋め立てではありません。海面上昇を考慮して、通常より数メートル高いところに人工的に地面につくり、そこに建物を建設します。莫大な費用がかかりますが、一部の島の住民が将来、レイナ島に居住できる様に島自体を改造しているのです。」
俊弥が窓の外の巨大な埋め立て地を眺めている間に、ヘリはその上を通過し海上に出て行った。
「島の外に出たぜ?」俊弥はキャメイを振り返った。
「はい。先に別の島にある施設に案内します。」