KYAMEI's room

「フライトはいかがでした?」キャメイと名乗った少女はコーヒーを淹れながらたずねた。
「んー、まあまあかな」
「まあまあ?」
「いや、全然揺れなかったし快適なフライトでしたけど」フライトの事なんかどうでもいいよ。俊弥はそう思いながらできるだけ笑みを浮かべて答えた。
「変な顔ですね?」
「はあ!?」思わぬセリフに俊弥の声が高くなる。
「あっ、ごめんなさい。えっとそーいう意味じゃなくてぇ、えーっとこういうのは日本語でなんて言えばいいんですかね?」
そんなことを聞かれてもこちらが困るが....
「フライトが快適って言ってるのに、顔はちょっと嫌がってる様に見えたから」
キャメイがそう説明してくれた。
「俺は飛行機の中で眠れたことが無いので。揺れは無かったけどほとんど日本から徹夜状態でやってきたので、今も少し眠くて」
「あは、よく眠ってたものね」キャメイは楽しそうに笑った。
その様子に俊弥は少しムッとした表情を見せた。
「??あの?もしかして私何か変な事言いましたか?日本語をちゃんと使えてないかもしれないから、もしあなたを怒らせる様なことを言っていたらごめんなさい」
ああ、そうか、この子は外国人なんだよな。肌の色や顔だちが日本人に良く似ており、しかも流暢な日本語を話すので、自分が外国に来ていて、目の前にいるのも外国の少女だということをつい忘れそうになる。
「気にしないで、そんなことは無いから」俊弥は表情を緩ませて答えた。
そういえば空港に迎えに来てくれた女の子、彼女もずいぶん流暢な日本語を話していた。ただ彼女の場合、かなり訛っていたが。あれは福岡?どこであの言葉を覚えたのだろう。だいたいなんでお姫様が...
「あの、さっき僕を迎えにくれた女の子だけど」
「はい、コーヒーどうぞ」キャメイが淹れ立てのコーヒーを目の前に置いてくれた。
「ああ、ありがとう。えっとあの子は本当にこの国のお姫様なの?」俊弥はそう言ってから、キャメイが出してくれたコーヒーに口をつけた。結構香りが良く、寝不足の体を少しばかり元気付けてくれる。
「それに君は....レイナ姫とあまり年齢も変わらなそうだけど、この国の経済産業長官って....」
「おかしいですか?」俊弥の問いにキャメイはにこやかに答えはじめた。
「こんな女の子が長官とか言っても信じてもらえないですよねえ?こう見えてもハーバード出てるんですよ?」キャメイは自分が10歳の時には米ハーバード大に留学し、14歳で修士号を取得したこと、帰国後、レイナ王国の産業政策に対するアドバイザーとなり半年前に経済産業長官に就任したことを手短かに説明した。

「つまり...」俊弥は自分の言葉の非現実的な響きに抗いながら話した。「君がこの国の経済をコントロールしているというわけだ?」
「はい、そういうことです。」キャメイはにこやかな表情を崩さずに答えた。「もちろん、私ひとりでやってるわけじゃなくて、国外から優秀なスタッフを何人も招いていますし、細かいところは兄や父がフォローしてくれているので」
確かに10歳くらいで大学に入る天才児の話はニュースなどでは伝え聞く。世の中には頭の良い人間がいるのだろうが....目の前の少女がそのような天才児だとはなんとも信じかねた。
「で、さっきの女の子は...」
「レイナ姫ですか?正真正銘この国の王女ですよ。かわいいでしょう?」
「え、....いや、まあ、....」
「かわいくないですか?レイナ姫?」キャメイは相手のとまどいを楽しむような表情で俊弥の瞳を覗き込む。
この国のお姫様なら可愛く無いとか言うわけにはいかないよな。本当のところかなり可愛かったし。でもなんか脅迫されてるみたいだよ。俊弥はそんなことを思いながら仕方なく答えた。
「可愛かったよ、確かに」
「でしょう!!」キャメイは急に高い声を上げた。
「レイナは外国の方に人気あるんですよ。この国の観光大使も務めていて、半年ほど前に日本にも行ったんですけどね。日本でもずいぶんマスコミの方が取り上げて下さって」キャメイは自分のことのように笑顔で話を続けた。
はて?半年前?まるで記憶に無いな。そうは言ってもそもそも俊弥はここ何年もまともにニュースなど見てはいなかった。そういえば日本で新札が発行された時は流通開始の3日前に知って驚いたものだ。


「ところでこれからどうなさいます?少し島内を見学しますか?それとも少しお休みになります?」キャメイはふと話題を変え、今日これからの予定について切り出した。
「少し休みたいかな。機内で眠れなかったんで」この国がどんなところなのか、興味はあったものの、とりあえずは疲れた体を休めたかった。
「わかりました、では宿舎にご案内しますわ」