先輩?後輩?


「グレイマスクさん、田中さん、もう降参してください。勝負はつきました」
桃子が悲しげな表情で語りかけた。

「ずいぶんと自信満々ですね」
グレイマスクは阿久津に足と肩を押さえられた状態のまま、不敵な口調を崩さない。

「私は勝ちます。何があっても」
凛として響く桃子の声。
「別に阿久津さんがあなたを押さえているからじゃないですよ?」
グレイマスクの方を見て言葉を付け加えた。

「こっち見んね!!」
突如桃子の背後にれいなの声。
瞬時の判断で右に跳ぶ桃子。
本能的に顔をかばうように挙げた左腕に鋭い衝撃が走る。

「遅かね」
桃子の目の前にれいなの手刀が迫る。
両腕でれいなの右手の突きを止める。
「うあ」
桃子の体が後方に弾ける。
左腕を正拳突きの状態で突き出し、仁王だちになるれいな。

「別にれいなは自分の判断で戦えるけん。容赦はせんよ、先輩」
れいなは真剣な面持ちで吹き飛ばされた桃子を見つめた。
その表情には憎しみも興奮も無く、ただほんの少し悲しい顔をしてるように桃子には見えた。

「先輩か」
屋上の床にたたき付けられ、体についたほこりを払いながら、少しよろよろと桃子が立ち上がった。
「いつも田中さんはそこにこだわりますよね?」

「うるさい」
桃子が立ち上がりきる前にれいなが体を大きく回転させながら右手で手刀を叩きこもうとする。
バランスを崩した桃子は右手を地面につき、左足を上げて応戦する。
桃子の蹴りを避けながら一旦後方を下がるれいな。

「ずっと気になってた。6期はキッズの後輩なのになんとなく先輩みたいに扱われとるけん。あんたらだっていい気はしてなかったやろ?だからどっちの力が上か決着をつけんと」

「田中さん」
桃子はボクサーのように構えながら悲しげは表情を見せた。
「もぉはホントにそんなこと気にしてないですよ?」
「桃子ちゃんのは計算やろ」
れいなの拳が飛ぶ。
正面から両手で受け止めるれいな。

「何?」
思わず両手を開いて掌を見つめる桃子。
「よそみせんね!」
れいなの攻撃が続く。
「熱い!!」
桃子はれいなの拳がかすめるたびに激しい熱を感じていた。
「きゃああああああああああああ」
桃子の悲鳴。
全身が焼ける様に痛い。熱い。
炎?田中さんの手から?



「そろそろ手と足を離してくれませんかね?」
グレイマスクは阿久津を見上げながら静かな声で言った。
「何?」
「無意味ですよ?さっきから私の攻撃をボディに受け続けていて、このままではあなたが倒れてしまう。れいなさんはもはや自分の意思で動いています。私の足を押さえつけても無意味ですよ?」

阿久津はグレイマスクの足を自分の足で踏みつけ、更に肩を押さえて動けなくしていたが、グレイマスクは肩から下だけで腕を動かして阿久津の強靭なボディを撃ち続けていた。
確かに限界だが。田中れいな、彼女が自分の意思で?阿久津は空に跳んだ桃子とれいなを苦痛に顔を歪めながら見上げた。


「どこに逃げても無意味やけん」
れいなが拳を振るともはや明確に目視できるほどの赤い炎が桃子に襲い掛かる。

体の芯まで焼き尽されるかのような炎。
しかし・・・

おかしい。服は燃えてない?
これは幻覚?

肉弾戦に突入して物理的な力の闘いだったのに、また光の玉とか光線とかよくわからないエネルギーが使える状態に戻った?ということは?



「ま、まさか」
阿久津は二人の闘いを見上げながら、思わずグレイマスクを抑える力を緩めていた。
グレイマスクはその瞬間を見逃さずに阿久津から離れる。

「しまった」

グレイマスクは阿久津から3メートルほどのところに立って、静かに口を開いた。
「ご心配なく、私は何も手を出しませんよ。だってゲートが開き始めていますから」

ゲートが。
それがれいなが炎を使い始めた理由?
だとすると・・・

桃子さん。阿久津は祈る様に桃子を見つめた。