桃子の咆哮


「桃子ちゃん、あたしたちと戦うの?」
さゆみがぞっとするほど冷酷な声を発した。
テレビで見るブラックぶりっ子キャラとは大違いのその声に桃子はぞくりとするものを背中を感じた。

「やめといたほうがよかね」
れいながにやにや笑いながら桃子を見る。

「ちょっと待って。あんたの相手はあたしだよ、道重さん」
ゆりながさゆみの後ろから肩を掴み、右拳を叩き込んだ。
ばちん!!

大きな衝撃音が響く。
だが、さゆみは何事も無かったかのようにそこに立っていた。
右の手のひらを顔の左側にかざし、ゆりなの拳を受け止めていた。
「くっ」
ゆりなが苦しそうに呻く。

どさり。
ゆりなはそのままさゆみの足元に倒れた。
さゆみは倒れたゆりなに一瞥をくれるとゆっくりと桃子に向かって歩き出す。

「ま・・・て・・・あたしはまだ・・・」
ゆりなが呻きながらさゆみの足に手を伸ばそうとする。
わずかなところで届かない手。

「あなた達を殺したくは無いの。そのままおとなしく倒れていなさい」
再び冷たい声でさゆみが語りかける。

「そうそう、じっとしてれば命まではとらんっちゃよ」
れいながさゆみの横にすっと並ぶ。

二人のほんの2メートル前には桃子。
違う。二人の言葉に隠された好戦的ニュアンス。
桃子の知る二人とは違う。いや、道重さんは案外。

多分・・・この二人は本物なんだろう。根拠は何も無いが桃子の直感がそう伝えていた。
それでも桃子の知る二人は、そんなに深いつきあいでは無いけれど、違う。田中さんはヤンキーキャラってことになってるけど、実際は・・・・何かが二人を・・・

「田中さん、道重さん、申し訳ありませんがあなたたち二人を倒します」
桃子がそう言うと同時にさゆみ、れいなの眼前から瞬時に消え失せた。

「甘い!」
れいなの蹴りが何も無い空間に突き刺さる。
鋭い衝撃音とともに、桃子が屋上のフェンスに張り付く。

れいなは桃子の移動先を予測して蹴りを繰り出したのだ。

「がっ」
普段の桃子には似合わない呻きをもらして、一瞬口から血のようなものを吐いた。

「まだまだぁ」
再びダッシュする桃子。
「無駄だって言ってるでしょ」
さゆみとれいながそろって同じ場所に蹴りを繰り出した。

「え?」
さゆみが驚いた表情を見せた瞬間、さゆみとれいなの背後に桃子が現れた。
「いやあああああ」
激しい気合とともに、さゆみにラリアットかます桃子。
小柄なれいなの体もろとも、さゆみをなぎ倒す。

さゆみを倒すと同時に右拳を体重をかけて振り下ろす桃子。
ひゅん!

倒れたれいなが一瞬早く片腕で体を浮かせ、カポエラの様に蹴りを放つ。

バック転で後方に逃れる桃子。

再び距離を開けて対峙する3人の少女。

桃子はさゆみ、れいなを睨みつけたかと思うとすっと目を閉じた。

「心眼とか言う奴?アフォっちゃねー?」
れいながケタケタ笑う。

桃子は目を閉じた状態ですっと両手を上にさしあげ、それから下に降ろす。
そして目を開けて軽いステップを踏み始めた。まるでダンスを踊る様に。

まるでステージ上の様に軽やかに踊る桃子。


「なんのつもり?」
さゆみがいぶかしげに睨み付ける。
「単なるこけおどしやね」
桃子に向かって踏み込むれいな。
超スピードで動くわけでなく、軽やかなステップのままするりとれいなをかわす桃子。

「なんね?」
振り返るれいな。そのれいなの肩の上に立つ桃子。
「この!降りんね!」れいなが桃子の足を掴もうと瞬間、ただ、すっと着地する桃子。
「なんなの?」
ふたりの様子を見ていたさゆみの顔が歪む。


再び踊り始める桃子。

これは?グレイマスクを睨みつけながらも3人の闘いを観察していた阿久津にある考えが浮かんでいた。