舞波ノート


次元獣は桃子の光の剣に頭部を貫かれ倒れたままだった。
ピクリとも動かない。

阿久津がよろよろと立ち上がる。
全身ぼろぼろの姿に戦慄を覚える舞波

「なんとかアイツを倒すことができたようですね」
阿久津は金色の獣に視線を向ける。

次元獣の周りの空気がゆらりと揺れた様に見えた。
まさか?舞波は身構える。
桃子の持つマイクからは既に光の剣は消え、桃子自身も放心したように地面にへたり込んでいる。

「大丈夫ですよ。大丈夫」
阿久津は舞波の様子に気づき安心させるように声をかけた。

次元獣の周りの空気のゆらぎが大きくなり、次元獣の姿がおおきくボケて見える。
金色の光。次元獣が光に包まれた。

「消えた?」ゆりなが思わず駆け出す。
「いない、いないよ、アイツ」ゆりなは次元獣がいた場所で腕を叩く突き上げ、ぶんぶんと回した。

「今日のところはなんとかなった様ですね。まさか、桃子さんがあれほど覚醒しているとは。ですが、あれではまだまだです」
阿久津は再び桃子を見つめた。
その目はなぜかとても優しげに見えた。
「まだまだってどういうことさ?」
ゆりなが阿久津に問いかける。
「さてと、私も引き上げますか」
阿久津はゆりなの問いには答えず、スタジアムの出口に向かってゆっくりと歩き始めた。
「ちょ、待ちなさい」
舞波は跳んだ。阿久津の前に立つ。

「今のあなたではまだ私を止めることすらできませんよ」
阿久津はそう言うと右手を胸の前に出し、十字を切った。
阿久津は光に包まれる。
そして、

「消えた?」
スタジアムの中には舞波、ゆりな、桃子の3人だけが残されていた。




今日の出来事は一体なんだったのだろう?
そして私達のカラダは?
夜、舞波は自室で机に向かい、ノートに今日の出来事を書き連ねていた。

3人はあの後つんく♂に連れられて横浜アリーナに戻り、桃子とゆりなはいつもの様にコンサートに出演していた。舞波は会場の関係者席からその様子を眺めた。

まったくいつもの通り。おじさん達がたくさん桃子やゆりな、他のメンバーたちに喰いつくようにしながらコンサートを楽しんでいる。
出演者達もさも楽しいそうに歌い踊る。
事実、ステージの上に立つのは楽しい。アドレナリン?ドーパミン?なんだかよくわかないけど、カラダに力がみなぎる。でも、終わったになんともいえない虚無感に晒されることがあった。舞波はそれが耐えられなかった。

桃子とゆりなは今日はどうだったんだろう?

私達の力。単に物理的に力が強くなっただけだと思っていた。
でも、阿久津が私達に見せた力、そして桃子の力。
私やゆりなにも同じ力があるのだろうか?

なぜだろう?少し悔しい。こんな力欲しく無いと思いながら桃子の力に嫉妬している自分がいる。

阿久津。
あの人の目的は何なのだろうか?
最初は何か悪いことをたくらんでいるのかと思っていた。
彼のことを悪の親玉だと。

でも、今日の彼の行動は。
阿久津の言葉。まるで私達を試している様な。
彼は何故あの金色の獣と戦ったのだろう?

あれを呼んだのが阿久津じゃないとしたら?
わからないことだらけだ。


つんく♂さんの行動も気になる。
もしかして?つんく♂さんは何か知っているんじゃないだろうか?

そもそも私達の力を受け入れていること自体が変だ。
きっとつんく♂さんは何かを知っている。


早くこんな状態から抜け出したい。
早く普通の生活に。

私は・・・

舞波のノートは途中で言葉が途切れていた。

舞波はいつの間にか机に向かったまま眠りに落ちていた。