追跡


「きえええええええええええええええええええええええええ」奇声を発して、仮面の男のひとりがれいなのそばを離れ走り出した。
アリーナに下りたゆりなに向かって一直線に走る。
正確に言えば、フロアに敷き詰められた可動座席の上の跳んでいた。

「このお!」ゆりなは顔の前で両腕を十字にクロスさせると、迫ってくる仮面の男に向かって踏み込んだ。

ばちん!

短い衝撃音をたててゆりなと仮面の男がぶつかる。男がゆりなのクロスアームブロックに弾かれ後退する。
ゆりなはすっと体を横にすると、左肩を相手の方に向け、左腕に軽く曲げて拳を握った。
ひゅん、ひゅん

ゆりなの左腕に振り子の様にリズミカルに揺れる。

仮面の男はさながらゾンビの様に立ち上がり、じりじりとゆりなに近づく。

ひゅん!
一瞬、ゆりなの左腕に鞭の様にしなりながら伸びた様に見えた。
仮面の男がゆりなの動きに反応し、飛んできたゆりなの左拳を避ける。
ひゅ、ひゅ!まるで腕が何本もあるかのような動きで、ゆりなのパンチが仮面の男をかすめる。
腕の振りに合わせて高速で足を踏み込むゆりなの動きが、あたかもパンチが伸びてくる様な錯覚を引き起こしていた。

「すごい」別の仮面の男に捕まったままのれいなはゆりな、いやマイハマン2号と仮面の男の戦いに見入っていた。
バシ!
れいなは自分の後ろで衝撃音がするのを聞いた。
自分の腕を掴んでいた、仮面の男が倒れる。

そしてれいなのすぐ横に、まるで空手の正拳突きの様なポーズで自分と同じくらいの背丈の戦士が立つ。
舞波だ。ゆりなが戦う間、舞波は身をかがめて静かにステージ下まで移動し、れいなを捕まえていた男に不意打ちを喰らわしたのだ。

仮面の男はすぐさま立ち上がった。
「はやく、セット裏に」舞波はれいなに向かって呟いた。
れいなは仮面の男がいるのとは反対側のステージの壇を駆け上った。

仮面の男がすぐさまれいなを追う。
「待ちなさい」舞波が仮面の男に向かって派手なドロップキックをお見舞いした。
しかし仮面の男はこれをしっかり両腕でブロックする。
弾かれた舞波は空中で一回転して着地。

「このお」舞波は連続回し蹴りを仮面の男に仕掛けていく。

仮面の男はバック転をしながら、この蹴りを避けてステージの端からフロアに飛び降りた。

一方ゆりなは別の仮面の男にフリッカージャブの猛攻を仕掛ける。
最初はうまく避けていた仮面の男を追い詰めたと思った瞬間、ゆりなの体が弾けとんだ。
3人目、最初にゆりなと舞波が倒した仮面の男がゆりなに体当たりをしたのだ。

「ちっ、復活したのね」
ゆりなは思わず舌打ちする。

「ぎぃ」不思議な声を発した仮面の男たちはセンターフロアから会場の出口へと走り出す。
舞波、あいつら逃げるよ」
ゆりなの声に舞波が逃げる男たちを目で追った。
その瞬間に舞波と戦っていた男が舞波の脇をすり抜けて別の出入り口に向かう。
さらにフロアに倒れていた4人目の男が起き上がり、合流する。

4人の仮面の男はアリーナ会場から外に逃げ出した。

「ゆりな、追うよ!」
舞波は思わずそう叫んでいた。
ゆりなはうなづき、二人はダッシュする。

会場のロビーに飛び出し、騒然とするスタッフを横目に正面玄関を強引を開け外に出る。
「何だあれ?」会場に外には午前中から集まっている熱心なファン達。
突然現われたおかしないでたちの二人に気づいたものたちが騒ぎ出す。

舞波、あれ」ゆりながある方角を指差す。
仮面の男たち!
舞波とゆりなは空を跳ぶ様にジャンプした。

会場周辺のファン達から一瞬にして見えない位置まで舞波とゆりなは跳んだ。
仮面の男たちも跳ぶ。彼らにも特殊な力があるのか。
男たちと舞波、ゆりなは鶴見川を飛び越え、走る車の上を跳んだ。

やがて目の前には大きなスタジアム。
男たちは日産スタジアムに逃げ込んだ。

「ここって、サッカーの試合するところ?」
たしかこのスタジアムで日韓ワールドカップの試合があったはず。

こんなところに逃げ込んで…

舞波とゆりなはこの先に待ち受けるものを知らぬまま、スタジアムの中へと足を踏み入れた。