桃子の帰還

桃子は会場に戻った。
つんく♂が信頼できるスタッフを呼び、そのスタッフの車で会場に送らせた後、自らはゆりなと舞波を連れ帰った。

「ちょっとぉ、心配させないでよぉ」
「どこ行ってたのびっくりしたでしょ」
メンバーからの問い掛けに桃子は曖昧に頷くだけだった。

「あれ?ところでゆりなは?あと舞波来てるって聞いたんだけど」メンバーの須藤茉麻が不思議そうに声を上げる。

「あたしならここだよ」ゆりなは既に最初の公演で使うステージ衣装に着替えて皆の後ろに立っていた。その横には舞波

「ゆりなどこ行ってたの?」千奈美がやや心配げに聞く。
「ちょっと俺と一緒に嗣永を探しに行っとったんや」バックステージに出来た女の子達の輪を覗き込む様にしてつんく♂がやってきた。

「石村も一緒にな。別のスタッフさんから見つかったゆうて連絡あったから、急いで戻ってきたところや」

女の子達は皆不思議そうだったが、誰もそれ以上は追及しなかった。

まだステージに慣れない頃は、突然ステージに立つのを拒否したりそんな子も実のところ珍しく無かった。最近はさすがに皆なれてはきたが、まだまだ10代の少女達、時に精神的に不安定になるところをお互いに見てきたため、この事を今この場でどうこう言おうとするメンバーは居なかった。

「で?桃ちゃん、今日は演れるの?」Berryz工房キャプテンの清水佐紀が桃子の顔を不安げに覗き込む。

桃子は少し下を向いていたが、顔を起こすと明るい笑顔で言った。
「うん、もう大丈夫」
それはステージ上で見せるアイドル嗣永桃子そのものの笑顔だった。



舞波
そろそろバックステージを出て、関係者用の観覧室に移動しようとする時、舞波は後ろから声を掛けられた。

「桃子、ホントにもう大丈夫?」
「うん、平気。それより今日は助けてくれてありがとう」
「え?」
「だから、さっき」
「隠してもダメだよ。なんか声変えてたみたいだけど、さっき助けてくれたの舞波とくまちょでしょ?」
「やだな、何言ってるの」舞波はとりあえずとぼけてみることにした。
「ふーん、言いたく無いならいいけどさ。つんく♂さんも絡んでるみたいだよね」

「せや」
二人が振り向くとつんく♂とゆりなが立っていた。
「嗣永、あのサングラスの男は阿久津やな?」
桃子はその言葉にこっくりとうなづく。

「ってことは、嗣永、お前もあのクスリ、いやチョコを」
桃子は再びうなづく。

舞波はハッとした顔でゆりなと顔を見合わせた。

「そっか」つんく♂は大きく息を吐いた。
「とりあえず熊井の息抜きというか、ガス抜きと思ってあの戦隊を始めたんやがな・・・」
「戦隊ってくまちょと舞波がかぶってたヘルメットとか?」桃子が尋ねる。
「せや。ちょっとしたお遊びのつもりやったが。もしかすると遊びではすまんかもしらんな。後でゆっくり話そうや」

桃子は三度こっくりとうなづいた。

阿久津、舞波も覚えていた。
かつて事務所でスタッフとして働いていた男。
さっきのつんく♂さんのセリフ、桃子もってことは・・・


「すいませーん、出演者のみなさん集合してくださーい」
少し離れたところでスタッフが出演者を呼ぶ声。

「よし、とりあえず嗣永と熊井はめいっぱいはじけて来い。石村は俺と一緒にステージ見てるか?な?」
つんく♂はそう言って桃子とゆりなを出演者の輪へと送り込んだ。

★★プロローグ完★★