司令官


「石村、ひさしぶりやな」
暗がりから金髪の男が姿を見せた。
「つ●く♂さん!」

「おいおい、別に伏字にせんでええがな」
つんく♂は苦笑いしながら二人の前に立った。
実際、舞波の発音は「ん」の部分がビミョーだったのだ。

つんく♂さんどうして・・・」
ゆりなはポカーンとした顔のまま呟いた。
「なんや最近熊井の様子がちょっとおかしかってんからな・・・そんで気になって」
つんく♂さん!」
ちゃんと自分のことを見てくれているんだ。ゆりなは素直に感動していた。
「ゆりな」舞波がゆりなの肩を叩く。
「え?」
ゆりなは何?という感じで舞波を見下ろした。
いつの間にか舞波の顔からは笑顔が完全に消えている。まるで敵を見る様な目つきでかつて自分のアイドル時代をプロデュースした男、つんく♂の顔を見ていた。

「なんや、怖い顔すんなや、俺なんか悪い事したか?」
つんく♂さん、どうやって私達を追ってきたんですか?」舞波は冷たい口調を崩さない。
「あ!」ゆりなも気づいたらしい。
普通の人間がゆりなと舞波を簡単に追えるはずが無いのだ。

つんく♂さん、どうして?」ゆりなも疑いの眼差しを金髪のプロデューサーに向けた。
「それはやな」つんく♂は人差し指で鼻の頭を軽く掻いた。かゆいわけではない。どう答えたものか思案しているのだ。

「俺もお前らを追いかけた。空飛んでな」つんく♂はニカっと笑った。

「あなたがやらせたんですか?」舞波はゆりなを自分の後ろに押しやると険しい視線をつんく♂に送る。

「何をや?」
「あのクスリ、あれはつんく♂さんの指示なんですか?」
「ちゃうで」低く、険しい声。
「俺はお前らにそんなんさせへん。俺もあの男に騙されたんや。2年前事務所から消えたあの男に」

舞波」ゆりなが後ろから舞波の肩をぎゅっと掴む。
「ねえ、つんく♂さんは大丈夫だよ」
「そんなのわからないよ。今の言葉にだって何の証拠も無いもん」

「せやな、俺は今はなんも証明でけへんわ」つんく♂は肩をすくめてみせた。
「せやけど、今、お前らを助けたい言う気持ちはほんまやで?俺たちはある男にあのクスリを飲まされておかしな力を得た。常人には無い力やが正直やっかいな力や。テレビの戦隊モノなら正義のヒーローになれるが、現実の世界でむやみに力を使えばどんなことになるか」

舞波つんく♂がしゃべる間もじっと睨み付けている。

「お前ら子供だけではあかんで。大人の支援が要る。俺は今、人に頼んであの男を捜しているんや。そしたらもしかすると元に戻れるかもしれんしな」

「戻りたいですか?」舞波が口を開いた。
「ああ、戻りたい」

「飛んでる時、楽しく無いですか?」ゆりなが聞く。
「楽しいな」つんく♂はついさっきのことを思い出す様に楽しげに笑う。
「けどな、やっぱり普通の人間の力に戻る方がええわ。いつか自分の力が暴走して取り返しのつかんくらい人を傷つけるかもしらん」つんく♂は真顔に戻った。
「だからお互いカバーしあって、暴走せんようにな。それといいことに俺らの力が使える様に」

つんく♂さん」
舞波は一歩前に出てつんく♂と向き合った。
「あなたを信じたわけではありません。でも今はあなたの話を聞きましょう」

「ほんまに」つんく♂はふうっと息を吐いた。
「えらい大人になったなあ、石村。ずいぶん辛い思いしたんやろ」

「そんなことをいいです。つんく♂さんが何を考えているのか聞かせて下さい」

つんく♂は二人に自分の考えを話して聞かせた。
要するに三人で自警団のようなものをこっそりやろうと言うのだ。
芸能事務所には色々と危険な人間が近づくことが多い。
Berryzのメンバーだってずいぶんと熱狂的なファンの尾行にあったりしていると、中には度の過ぎた行動に出る輩がいる。
他にも色々と。

それらからメンバーを守ろうと言うのだ。

「それって」舞波は再びつんく♂を睨み付けた。
「結局事務所に体よく使われてるんじゃ」
「会社はこのことは何も知らん」つんく♂は答えた。
「お前らのサポートは全部俺がやる」

「いいか、俺らはあくまでも社会正義に反しない範囲で活動する。疑わしいと思ったらいつでも抜けて構わない」


「ねえ、舞波。やってみようよ?」
今ひとつ釈然としなかった。つんく♂の言う様な活動が現実的にできるのかどうか、いくら彼のサポートがあったとしても疑わしいが...舞波は逡巡した。
でも・・・

「いいわ、やります」

「そっかー、ほたらチーム名きめんとな」つんく♂はのんきな感じで答えた。
「よっしゃ、これでいこ、美少女戦隊マイハマン」

舞波は絶句した。やはりこの男とを信じたのは・・・・

つんく♂は陽気な声でかまわずしゃべる。
「そんでな、俺司令官な、カッコええやろ?」