再会

12月か、ずいぶん寒い日が増えてきたな。
街はクリスマスモードに装いを変え、カップルが寒さを避ける様に寄り添って歩く。
学校帰り、舞波は街の様子をぼんやりと眺めながら、近所の家電量販店に立ち寄っていた。
ママからメールで乾電池を買ってきて欲しいと頼まれているのだ。
いつもの格安20本パックを手に取りレジに向かう。
ポイントカードを差し出し素早く支払いを済ませ、そそくさと立ち去ろうとした。


不意に、レジ近くから見える大型のプラズマテレビが目に入った。
えりかちゃん、舞美ちゃん、千里、愛理・・・・
大画面のテレビに映る懐かしい顔。
舞波が良く知る女の子達が、アイドルユニットとして画面の中で歌い踊っていた。

あの子達、最近良くテレビに出てるなー。
もう何年もやってるからな。良かったね。今は素直にそう思えた。
でも。

かつては自分もあそこに居た。
違うユニットだったけど、あの子達とも一緒にたくさんレッスンをした。
あの場所を離れてずいぶんと時間が経った気がする。みんなどうしてるんだろう?


心の中に芽生え始めた想いを断ち切る様に、舞波は店を離れた。



家への帰り道、歩いて5分のところにある公園の前を通る。
誰も居ない。少し前まではまだこの時間に子供達が遊んでいた気がするけど。
もう暗いし、寒いし…

なぜだが舞波は公園の中の広場の真ん中に立っていた。
誰も居ない公園の真ん中ですぅっと冷たい空気を吸う。
なんとなく体の中が不思議な力で満たされる様な不思議な感覚。

そのまま天を仰げば、少ないけど星が見える。

不意に冷たい澄んだ空気の中にかすかな澱みを感じた。


舞波は跳んだ。
常人とは思えぬバネで自分の身長以上の高さまで跳びあがり、クルリと一回転して前方に着地する。助走無しのジャンプで5メートルは先に着地していた。

舞波は振り返り、自分が居た場所を見た。


そこには、すらりと細くて背の高い人型の影。
「ゆりな?」
見覚えのある、髪の長い背の高い少女がそこに立っていた。

「あんたは私達を裏切った」
ゆりなと呼ばれた少女はそう呟いた。
それから舞波に対して半身になって構える。
左肩を前に出し、左腕を鎌の様に曲げて。これはどこかで見たことがある。クラスの男子から借りて読んだボクシング漫画で見た構えだ。
たしか…ふ、フリッカージャブ?

舞波がそう思った瞬間にゆりなは左腕を曲げた状態のまま、肩から下で振り子の様に振り始めた。

「待ってゆりな」
舞波がそう声をかけた瞬間、振り子の様に振られていた腕がひゅんと唸りを上げて舞波に伸びてきた。
鞭の様に腕がしなり、拳が舞波が襲い掛かる。

5メートルあったはずの距離が、ゆりなの踏み込みで一瞬で縮められていた。
ゆりなの長い腕の先がちょうど舞波に当たるか当たらないかの距離に二人はいた。

舞波はまるでカンフー映画のスターの様に上半身をスウェーさせてゆりなの鞭の様に振られる腕と拳を避けていた。

「ゆりな止めて」
舞波の願いも虚しく、かすかに狂気を感じさせる表情のゆりなは更に間合いに詰めようとした。

考えている余裕は無かった。舞波は膝を折って身を沈め、まるで地面を這う様に前に踏み込んだ。踏み出した右足がゆりなの両足の間に入り込み、急速に体を起こしながら右拳を固めてゆりなの顎に向かって突き上げる。

ギリギリのところで、舞波の拳は止まった。ゆりなの顎の下数ミリのところに舞波の拳はあった。

「ぐぅ」ゆりなは軽く唸ると、後方にはじける様に跳んだ。

二人の間に再び長い間合いが開く。

助かった。舞波はそっと息を吐いた。
右拳を寸止めにしたのはデモンストレーションとしての効果は大きい。しかしあのままゆりなの長い両腕で捕まえられていたら逃げようが無くなっていた。

舞波が見せた能力の片鱗にゆりなが警戒心を持ってくれたおかげで、少しだけ安全な距離が稼げた。この距離ならゆりなの動きを察知して対処できる。

だが、ゆりなは踏み込んで来なかった。
ゆりなは構えていた左腕を静かに降ろした。

舞波、あんたやっぱり覚醒してるね」
覚醒?まさか、ゆりなあの子も?ゆりなの言葉に舞波の心がゆらぐ。

「また来るよ」
ゆりなはそう言うと公園を去っていった。

舞波は近くに木に崩れる様にもたれかかった。
ゆりな、あの子も…

他に何人の子が…

5分ほど木にもたれていただろうか。不意に舞波のケータイから着信音が流れた。
ママからのメール。さっきお店に出るときにすぐ帰ると打ったのに帰って来ないので心配して返信してきたのだ。

舞波はすっくと自分の足でまっすぐに立つと、家に向かって歩き始めた。