ROLLER COASTER

「次これ、次これ」レイナは元気良くずんずんと歩いて行く。その先は4階か5階建てくらいの建物になっていた。平日の遊園地は並んでいる人もまばらだ。そのほとんどは外国人観光客っぽかった。
「何?ここ?」俊弥は良くわからずにレイナに付いて行く。その後ろをアサミと2名の衛兵が付いて行く。
建物の中は暗く、色とりどりのランプの小さな光が宇宙空間の様な雰囲気を演出していた。
「スペースマウンテンって知っとう?」レイナが俊弥に問いかけた。
「ディズニーランドにある奴?」
「そう」
「これはスペースマウンテン?」
「違うけど、まあ、パクリ」レイナはそう言ってニカっと笑った。レイナは時々お姫様というより、その辺のガキ大将的な表情をして見せることがある。
俊弥はレイナのそんな表情がなにげに気に入っている自分に気づいていた。
「あー、でもこれは・・・」レイナが何かをいいかけて口をつぐんだ。
「何?」
「乗ってみればわかると」レイナはそう言って、俊弥の後ろに回り、俊弥の背中を押しながら前に歩き出した。
「レイナはさあ」俊弥は背中を押されながら振り返った。
「なんね?」
「ジェットコースターとか好きなの?」
「うーん」背中を押す力が少し緩くなった。少し間があり、
「好き」またさっきと同じニカっという顔で答える。
ホント、小学生みたいな時があるよな。俊弥はそう思いながら自ら前進し始めた。
「あ、ちょ、もういきなり動くとびっくりするっちゃよ」レイナは俊弥の背中を押すの止めて、横に並んだ。

ガラガラの施設内は待ち時間も無く、俊弥とレイナがコースターの先頭に乗り、少し離れた位置にアサミ達衛兵、それに他の客数名を乗せるとコースターがゆっくりと動き始めた。
屋内で照明が少ないため、ほとんど真っ暗に近く、いまひとつ自分達の状況が把握できない。
少しづつコースターが上に昇って行くのは感じるが、それ以外は何もわからなかった。
「来るよ来るよ」俊弥の左側に座ったレイナが興奮した口調で騒いでいる。

不意にコースターが加速を始めた。そしてすぐに急旋回。真っ暗なので先が見えず、スリル満点である。俊弥は遙か昔に乗ったことがある、スペースマウンテンの事をこんなんだっけ?と思い出していた。
「キャー」隣でレイナが叫び声が上げている。ジェットコースター好きと言っていたが、かなりの騒ぎ様だ。レイナの右手が安全バーの下から俊弥の左腕をギュッと掴み、俊弥を自分の方に引き寄せるのか、自分が俊弥に近づこうとしているのか良くわからないが、とにかく二人の距離を縮めようとしていた。
俊弥は横のレイナの顔を見ようしたが、レイナは正面を向いたまま、わー、きゃーと騒々しく叫びまくっていた。きっと叫ぶのも楽しいのだろう。
ただ、暗いのであまりレイナの表情は良くわからなかった。

突然、光の中に投げ出された。
真っ暗な中から飛び出したため、一瞬、全てが真っ白な空間のど真ん中に放りだされた様に感じた。
コースターが建物の外に飛び出したのだ。周りの状況が見えた時にはコースターは屋外に伸びたレールの上昇する頂点付近に居た。下を見るとレールが海の上に飛び出す形で設置されているのが判った。
横を見ると、レイナがニヒヒというカンジで笑っていた。
そして・・・

再び闇の中に突っ込んだ。レイナがまた騒がしく叫び始める。

俊弥は頭が痺れるその感じと、左腕に感じるレイナの暖かい体温を受け入れて今の状況を楽しみ始めていた。
いつの間にか、レイナと一緒に大声を出して叫んでいた。
この島に来てからの様々な出来事と、もやもやした想いを全て吹き飛ばすかの様に。



レイナは大きな声で叫びながらも、実はチラチラと俊弥の方を見ていた。
最初は固かった俊弥の表情が、コースターが屋外に飛び出した辺りで緩むのを見て少し安心していた。
今日自分の想いを俊弥に伝えられるだろうか?多分無理。そんな想いを抱えながらレイナはそれでも今の時間を楽しもうと決めていた。
もしかすると俊弥には誤解されているかもしれないな。レイナはそう思いながらも俊弥の腕をギュッと掴んで体を寄せていた。



結局、二人は合計3回、そのコースターに乗った。
3回目が終わると、さすがに俊弥は少しふらついていた。
「いや、こんなの乗るの久しぶりだから」俊弥はそう言って言い訳した。
「えー、歳なんじゃなかね?」レイナはいたずらっぽく笑った。
しかし俊弥以上にボロボロな人間がもう一人居た。

アサミだ。3回目のコースターから降りた時、アサミは蒼ざめた顔をしてその場にへたりこんでしまった。
「アサミ大丈夫?少し休まんね?」レイナが心配そうに声をかけた。
『いえ、大丈夫です。すぐに職務に』そう言ってアサミは立ち上がろうとしたが、すぐにまたその場にへたりこんだ。
「もう無理せんと最初から言えばよかね?」レイナがたしなめるように言った。
『すみません』アサミのあまりにも殊勝な様子に俊弥はつい笑い出した。
つられて他の衛兵2人も表情を崩し、笑い始めた。あれ?っと俊弥は思った。レイナは日本語、しかも訛った言葉で話しかけているのに、アサミは英語で答えている。
アサミは日本語を理解できる?
アサミはバツの悪そうな顔をしていたが、レイナはそんなアサミにこんな風に声をかけた。
「アサミも今日は一緒に遊ばんね?みんなで楽しくやろ?」
アサミは小さくうなづき、落ち着いてからゆっくりと立ち上がった。
その時、俊弥が差し出した手を見て、一瞬睨む様な顔をしたが、結局はその手を取って立ち上がった。
「とりあえず礼を言う」アサミはぼそりと俊弥につぶやいた。日本語だった。