AMUSEMENT PARK

「こんなところもあるんだ」俊弥は感心したように周りを見回した。
巨大な観覧車、ジェットコースター、その他日本の遊園地でも良くみかける絶叫マシンの数々が並んでいる。
絶叫マシン以外にも子供用のSLやら、コーヒーカップやら、ゴーカート、様々な遊戯器具が置かれている。
映画の後で俊弥がレイナに引っ張ってこられたのは海の近くに造られた遊園地だった。観覧車自体は普段通勤するルートからも見えていたが、他にもこんなにたくさんのアミューズメント施設があるとは思っても見なかった。
「ここから見える以外にも色々あるとよ。バーチャルなんとかとか」レイナがあまり説明にならない説明をする。
多分CGを多用した屋内アミューズメントのことを言っているんだろう。
俊弥が仕事をしながら周りの同僚たちに聞いたところでは、このレイナ本島にはビーチ、カジノといったレジャー施設と、昔の遺跡の様なものや、レイナ本島独特の不思議な地形が楽しめる場所など、観光者向けのスポットには事欠かない様だったが、この遊園地のことはまだ一度も聞いたことが無かった。
ふと気づくとレイナが誰かに手を振っている。知り合いか?と思ったがそうでも無いようだ。ピンク色のうさぎのキグルミがわりとまばらな入園客に向かって愛想を振り巻いている。
レイナがこの国の王女だと気づいてるのか居ないのか、レイナに向かってことさらに愛想を振りまいている様だった。レイナもそれに応えるように笑いながら手を振っていた。

「あのうさぎさんは色々芸を見せてくれると」レイナが俊弥の方を振り向いて言った。
「芸?」
「風船で動物作ったり、なんかちょっとサーカスみたいなことしたり」
ああ、ジャグラーなのか。
「トシヤ、あっちいこ、あっち!」レイナは俊弥の思いとは全く関係なく、ある方向に引っ張っていった。

レイナは外にある大型の絶叫マシン類は無視して屋内へのと入って行く。その行く先にあったのは、大量のプリクラだった。
「とりあえずプリクラ撮ろ、プリクラ」レイナはそう言って問答無用で近くのプリクラの中に俊弥を押し込み、自分も入ってきた。俊弥は押し込まれる瞬間に後ろでアサミが物凄い形相で自分を睨んでいるのを見逃さなかった。
この後ずっとあんな風睨まれるのか…。俊弥は少し気が滅入ってきた。
そんな俊弥の様子には全く構わずに、レイナは慣れた手つきでプリクラの操作を始めた。
気に入ったフレームを選び、なにやらポーズを考えている。それから俊弥を促して撮影に入る。一枚目。撮ってみたものの、見事に俊弥の表情が固い。
「もうなんでこんなしかめっ面ね?」レイナはそう言いながらも笑って撮った写真をキャンセル、撮り直しに挑む。
「ほらトシヤ、笑わんね」レイナに言われて俊弥は無理やり笑顔を作った。体の方が棒立ちである。
機械から電子音声、日本語のままで「ハイチーズ」という声が聞こえ、写真が撮られる。「うーん、まあまあちゃっね」レイナはそんな風に言いながら、プリクラのディスプレイ上に電子ペンで落書きを始める。
自分の周りには可愛い星やら花やら描き込み、俊弥の顔には眉毛などを継ぎ足して遊んでいる。こーいうところはやっぱ日本の女子高生とかとあんま変わらないのな。俊弥はそんな風に思いながら、なぜか妙に緊張している自分に気づいた。
「できたー」レイナは嬉しそうに声を張り上げる。
プリクラからレイナが落書きしまくった写真がプリントアウトされて出てきた。
「あとで、トシヤにもあげるねー」レイナはそう言いながら出てきた写真を自分のバッグにしまいこむ。
「次撮ろ、次」レイナはそう言いながら次のフレームを選び始めた。続けて3枚くらい撮り、別のプリクラの機械に移動。
レイナは新しい機械の中で前の機械で撮った写真を見ながら俊弥に言った。
「なんかトシヤ、固いっちゃねー。もうちょっとこう」と言いながらレイナは俊弥の手を取り、自分の両肩に置かせた。
「そんな感じで、もうちょっと笑って」そう言われてもますます俊弥の表情は強張るばかりだった。
もうレイナとは何度も会ってるし、買い物に行ったり、クルーザーで遊んだり、普通に会話する分にはたいして緊張もしないつもりだったが、外に衛兵が居るとは言え、カーテンで仕切られた空間に二人きりで居るのは初めてだった。
レイナは何を思ってこんな状況を作り出しているのか?それとも何も考えていないのか?俊弥には良くわからなかった。
「ほら、もう、ちゃんと笑うっちゃ」そう言ってレイナはいきなり俊弥のわき腹をくすぐり始めた。俊弥が耐え切れずに笑い始めたところで見事にプリクラのシャッターが切れた。
写真の中でレイナが俊弥に抱きつく様にして俊弥のわき腹をくすぐり、耐え切れずに大口を開けて俊弥が笑っていた。
早速レイナはよくわからないコメントを写真を書き始めた。
俊弥には見たことの無い文字で意味が分からなかった。

「あの、レイナ、これなんて書いてあるの?」
「えへへへ、ひみつー」レイナはそう言って意味を教えようとはしなかった。

その一枚の写真で俊弥はなんとなく緊張がほぐれた気がした。
自分でも少し調子に乗ってるかなと思いつつ、レイナの肩を抱いてみたり、レイナの頭の上で指でツノを作ってみたり、二人で笑いながら何枚も写真を撮った。
プリクラから出る時、レイナが少し悪戯っぽく言った。
「トシヤ、今日の写真は誰にも見せたら駄目やけんね?」