BODY GUARD

「今日はトシヤの車でいかんね?」レイナにそう言われ、俊弥は少し迷った。
レイナを自分の車に乗せたからといってもどうということも無いつもりだったが、ここに来てからレイナとどこかに行く時は必ず公用の護衛付きリムジンを使っている。
この間のクルーザーや発射プラットフォームでの事件を考えると、二人だけで出かけるというわけにはやはり行かない。
「護衛は連れて行く必要があるだろう?」俊弥はレイナにそう諭した。
「でも」
レイナに粘られ、俊弥はしぶしぶ自分の車のキーを持ち、ふたりで部屋を出た。
駐車場に出ると案の定、警備の兵士に止められた。若い男。背は低い。
この男どこかで?確かここへ来て2日目に買い物に出た際についてきたSPのうちの一人だ。良く見るとまだかなり若い。十代?レイナと同じ年頃にも見える。
レイナはその兵士に事情を説明した。
『駄目です、姫。外国人と二人だけで出かけるなど持ってのほかです』
『トシヤは大丈夫』
『この男に害があるとは思っていませんが、昨日の事を考えればもう少し自重なさるべきかと』
『とにかく今日出かけるの!』
レイナに強い言われて男は押し黙った。
『えっと』俊弥が割って入った。
『その、君たち、別の車でついてくるのはどうかな?僕もそちらから離れない様に気をつけて運転するからさ』
その言葉を聞いた男はぎろりという感じで俊弥を睨んだ。
『貴様、いい気になるなよ?だいたい昨日も私が護衛についていくべきったのだ。たまたま休暇を頂いていたのと、政府の関連施設見学だし、近くにミチシゲがいるからとたかをくくっていたのが間違いだった。昨日は大活躍だったそうだが、そもそも素人が』
『ちょっと待って。俊弥は何も悪い事していないでしょう?そんな言い方をするなら』レイナが強い口調で遮った。
男はレイナにたしなめられて顔が真っ赤になった。
アレ?この子もしかして?俊弥は不意にそんな風に思った。
『わかりました。私ともう1名、お供の者が別の車で後から付いていきます。お前、くれぐれも姫にそそうが無いようにな』男は再び俊弥をにらみつけた。
『じゃあ、決まり』レイナは満面の笑みを浮かべてすたすたと歩き始めた。
「レイナ!」俊弥はレイナを日本語で呼び止めた。
「なんね?」
「先に行って車に乗っておいて。駐車場の番号は35番」そう言って俊弥は車のキーをレイナに向かって軽く放り投げた。
レイナはそのキーを受け取るとわかったと言って車の方に向かっていった。
『あのさ?』レイナが少し離れてから、俊弥は未だ厳しい顔をしている男に声をかけた。『君が自分の職務に忠実なのは良くわかったよ。僕も出来る限り協力するから、そんな怖い顔しないでくれないかな。それに』
『それになんだ』
『君、ホントはレイナ姫のことが好きなんじゃないの?レイナと同じくらいの歳だよね?俺も十代なら、多分レイナのこと好きになっちゃうと思うから』我ながら嫌な奴だと思うセリフだったが、なんとなく突っ込まずにはいられなかった。その男というより少年に見える兵士は、レイナに恋慕の情があるようにも感じたのだ。もし自分がライバル視されているのなら、誤解を…そんな風に思っていたのだが、三度男に睨みつけられた。
『あのな、何を勘違いしているのかしらんが』男はそこまで言って言葉を止めた。
『何?』俊弥は次の言葉を待つ。
『私は女だ!名前はアサミ。ついで言うと歳は20を超えている。良く覚えておけ!!』
『女…』
『そうだ。ほら早く行け、姫を待たせるな』
そう言われて、俊弥は思わず自分の車に向かって駆け出していった。