MONDAY MORNING

俊弥は自室で窓際のデスクの前に座り、ノートパソコンを開いて考え事をしていた。
午前9時。
本来ならば出勤時間だが、昨日、寺田とキャメイから今日は休む様に強く念押しされた。
昨日大変なことがあった割には体はピンピンしており、特に問題無く、俊弥としてはむしろもやもやした気分を忘れるために仕事をしていたいところだった。

ただ、特にキャメイから絶対に休む様に強く言われてしまい、従わざるを得なかった。
俺って予想以上に女の子に弱いのな。俊弥はそんなことをぼんやり考えながらパソコンの画面を眺めていた。

結局、海上発射プラットフォームで銃撃戦までやった相手の目的は未だ良くわかっていない。昨日俊弥がプラットフォームの点検作業を止める様に言った後、全作業員のプロファイルが洗われていた。ロケット発射作業に関わるごく一部の重要なメンバーのチェックは最優先で行われ、すぐに現場に復帰したが、その他の要員のプラットフォームへの搭乗は禁止されていた。
代わりにレイナ王国海軍の兵士が、プラットフォーム内で破壊工作の痕跡、重要な機材に傷が入っていたり、爆発物がしかけられたりしていないか?をチェックしていたが、昨夜の時点では何も見つからなかった。

一方、海軍に拘束された破壊工作員らしき人間は行方不明になった男から言われたことをやっただけと主張した。それも作業中の見張りや、それ以外はプラットフォームの正常動作のためのシステム点検等、直接的に破壊工作に繋がるものでは無かった。
もちろん彼らが本当のことを言っているのかは疑わしかったが、今のところ嘘を言っている明白な証拠も無かった。
彼らはパルの村の様に、レイナ王国の急激な開発に不満を持つ現地民であり、金をもらって発射プラットフォームの雑作業を行う要員として、ロケットの海上発射を請け負う米国資本の大企業とレイナ王室とのジョイントベンチャーに雇われていた。
彼らはどうやら破壊工作の全体像は知らされず、個々の作業を分割して割り当てられているだけらしかった。
作業自体はプラットフォーム内に独自の監視カメラや隠しマイクといった監視ネットワークを設置するもので、それ自体は直接的にプラットフォームやロケットの破壊等に繋がるものではなかった。そもそもパルが聞いた「破壊工作」なる言葉も、単に政府の仕事に反対を表明するための活動を大げさに言っただけのものだった。

妙な話だと俊弥は思った。誰かに金をもらってちょっと突っ張ってみただけの、政府に不満を持った現地住民が銃まで持ち出してあんな戦いを行うだろうか?単に金のためだけにあそこまでやるとは思えなかった。もしかするとこの国には根深い争いごとがあるのかもしれない。

「トシヤー!おはよー!」俊弥はいきなり後ろから両肩を掴まれた。
明るい女の子の声。俊弥が座っていた椅子の上で体ごと回って振り向くとそこにはレイナがにこにこ笑いながら立っていた。

「レイナ、おはよう」
「うん、おはよう」
「あの」
「何?」
「ここ俺の部屋なんだけど」
「知ってる」
沈黙が流れる。
「だからさ、君みたいな女の子がひとりで男の部屋に入っちゃ駄目だろ?まして君は普通の…」
「普通の?」レイナが人差し指を伸ばして俊弥の口にあてた。
それ以上言うなというしぐさだ。
その瞬間だけ、レイナの表情が少しこわばっていたが、すぐに笑顔に戻った。
「トシヤさ、もう体は大丈夫?」
俊弥はその言葉に立ち上がって、伸びをしたり、左右に体を捻ったりしてみせた。
「うーん、とりあえず問題無いっぽい」
「っぽい?」レイナがいたずらっぽく笑う。
「うん」相変わらず調子狂うなあと思いながら俊弥も笑い返した。
「じゃあさ?今日レイナとデートしよ?」
「え?」
デートという言葉に俊弥はしばし絶句した。
「君、今日学校は?」レイナも平日の昼間は基本的にはこの国の学校に行き勉強している。
「お休みにしたけん」レイナはくったくなく笑った。
「駄目だろ、それ」
「いいの」レイナはそう言うと俊弥の腕に自分の腕を絡めた。
「ね?昨日は結局楽しめなかったからさ。気晴らしにいこ?アメリカから新しい映画が来てるの。それ見にいこ?」
俊弥はとりあえずしぶしぶっぽく頷いた。