OBSERVER

俊弥は水面に顔を出し、ぼんやりと上を見ていた。
頭上はるかな高さに見えるキャットウォークや金属製のパイプ群。そこから乾いた射撃音が聞こえてくる。

いつの間にかパルが俊弥の体を掴んでゆっくりと泳いでいた。俊弥は最初自分で泳ごうとしたが、海水をたっぷり吸い込んだTシャツとジーンズを着た状態では思った様に泳ぐこともままならかった。
一方パルは俊弥よりはるかに達者な泳ぎで、パルに任せておいたほうが安全だということがなんとなくわかり、パルに身を委ねていた。

不意に上から何か落ちてきた。
人だ!

パルと俊弥のすぐ近くに着水した。
今のは?れいなやキャメイでないことは確かだ。ドミニクや寺田でも無い。
敵か?ミキティが連れてきたレイナ王国の兵士?

もう一人。
もう一人は水中に没したあと、自力で泳ぎ始めた。俊弥やパルの存在は無視して、発射プラットフォームを支える基台部分に向かっている。

さらにもう一人。弾に当たって落ちたのではない。自分でダイブした?
水面に仰向けになっている俊弥には、何か映画でも見ている様な光景だった。
さっきまで自分も舞台の一員だったのが、急に観客側にまわった様な気分である。

上ではまだ射撃音がしている。

また一人飛び込んできた。

なんだ?何か射撃音とは別の音が聞こえる。船のエンジン音?
「トシヤ!」パルが叫んだ。
何かを指差している。
俊弥はなんとか体を動かして、そちらを見た。何かが近づいてくる。黒いばかでかいゴムボートみたいなものが。
発射プラットフォームの巨大の基台の間を波をたてて突き進んでくる。
このままだと。まずい、自分達の真正面に来る。
そう思った瞬間にパルにぐいっと体を引っ張られた。

パルが水中に潜ろうとしていた。俊弥は深呼吸をする間もなく、水中に頭を沈めた。
今度はパルに引っ張られるだけでなく自分でも足を動かして少しでも深度を増そうとする。


頭の上で大量の泡と渦が発生した。油断すると引き込まれそうになる。
そういえば水の中でこんなに力いっぱい泳いだのはいつぶりか?
この間のクルーザーでは泳ぎを楽しむどころでは無かったし。今日も。

気が付くと大型の高速ボートは二人の頭上を過ぎ去っていた。
二人は海面に顔を出した。
ボートは基台のそばに止まろうとしていた。

さっきに上から飛び込んで来たらしい何人かの男達が拾われている。
逃げるつもりだ。止めたいが二人にはどうしようも無かった。

ボートは回収できる人間だけを回収して再び走り始めた。発射プラットフォームの基台の間を抜けて外の海に出ようとしていた。

「くそ、逃げられる」俊弥はこぶしで海面を叩いた。
バシュン。上で何か音がした。直後に龍のような白い煙が頭上から空中を走った。

その白い龍の様なものは逃げるボートに追いつき、そして、

爆発。

ボートが燃える。火の粉が飛んで来る。パルが思わず俊弥の頭を押さえて再度水中に潜った。
再び浮上。
くそ、多分ミキティ、あの女だ。どこぞのB級アクション映画じゃあるまいし、乱暴すぎだよ。

俊弥は再び海面をこぶしで叩いた。