TUNNEL

「これか」俊弥はひとりでブツブツ言いながら、送風管の蓋らしきものを軽く叩いた。さて、どうやって外したものか?ボルトか何かを外すんだとすると、工具が必要だ。
工具を探しに行く暇などないし、とその蓋の四方を触っていると、手動ではずせるラッチらしきものがあるのに気づいた。少し固かったが足で蹴飛ばして外すと意外と簡単に外す事ができた。
持っていた携帯を後ろポケットに差し込み、相手の位置を知るためのPDAを持って送風管の中に体を入れる。中は思ったより広くなんとか動けそうである。この中で身動きとれなくなったら洒落にならない。
問題はPDAにデータを送る無線LANの電波がどこまで届くかだが、それは行ってみるしか無い。
俊弥は送風管の中をはいずり始めた。


『動きが無くなりましたね』キャメイは張り巡らされたパイプの隙間から、相手の方を覗き込む様に監視していた。大きく顔を出すいつ撃たれるかわからない。かと言って相手を自由に移動させるわけにも行かなかった。
『どうします?』ドミニクが何もアイデアが無いという顔をした。
『とにかく動きがあれば攻撃して止めましょう。ミムラさんが何か考えているみたいだし』
『でもあの人はただの技術者なんでしょう?』
『時間を稼げばミチシゲから応援が来るはずです、あ!』キャメイは何かを見つけると手に持っていた銃を構えた。プルバップ式のアサルトライフルを斜め下に向かって数発放つ。

その弾は下方のキャットウォークの床に突き刺さり、そこを渡ろうとしていた男達の足を止めた。男達は伏せながらキャメイの居る場所に向かってすかさず射撃を加える。キャメイはその前に遮蔽物の陰に戻っていた。
『ここ場所が悪い、移動します。この陰から動かないで下さい』キャメイはそう言うと遮蔽物の反対側から別のキャットウォークに向かって走り出した。
キャメイの足音が響き、下に居た男達がそちらに向かって発砲する。

別の方角から数発の銃声がした。ドミニクがハンドガンを握りキャメイを援護していた。
キャメイは別の遮蔽物の陰になんとか走りこんだ。そこからだと縦横に走る比較的自分の近いパイプの隙間から相手の居る位置がうまく見通すことができた。逆に相手側からは、このパイプが邪魔になるはずだ。
キャメイは相手の位置を確認すると慎重にトリガーを引こうとしたが、はたと指を止めた。
パル!数人の作業服を着た男がパルを連れてキャットウォークを渡ろうとしている。気をつけないとパルに弾が当たる。キャメイは先頭の男を足止めするために再度慎重に狙いを定め、数発を放った。あと何発?キャメイはマガジン内の残弾数を考え始めていた。替えのマガジンは持っているが、交換に間に隙が出来る。
早く来て、キャメイ駆逐艦ミチシゲに乗るある軍人の顔を思い浮かべた。


俊弥は送風管の中をゆっくりと進んでいった。PDAで道筋を確認しながら、パルが居ると思われる場所に近づいて行く。問題は、どこかで垂直に下に降りる必要があることだった。あまり高さがあるところだと足や腰の骨を折りかねない。内部に作業用の梯子でもついていれば良いがそのようなものがあるかどうか良くわからなかった。

目の前に垂直の穴が見えた。俊弥は下を覗き込んだ。足から降りればなんとかそんなにたいしたことは無さそうだった。とりあえず腕を穴の向こう側に伸ばして一気に体を前進させる。上半身が穴を越えたところで膝を折り、足を下に下ろす。狭い送風管の中ではかなり大変な作業だった。そしてゆっくりと体をずり下げて行く。
両手だけで穴の上の部分にぶら下がった状態になると、深呼吸して手を離す。

どん!大きな音が送風管内に響く。思ったより衝撃がある。膝が壊れそうに痛む。
それよりも下の連中にこちらがやっていることが気づかれなかっただろうか?場所を特定されると素早く動けないこちらはいい的になってしまう。
俊弥は最大限のスピードでその場を離れようとした。

がががが。どこかで銃声らしきものが響く。敵が撃ってるのか味方が撃ってるのかさっぱりわからない。

PDAでもう一度彼我の位置関係を確認する。
このシステムの表示を信じるなら、うまくパルの近くに回りこめそうだ。
キャメイ達がうまく相手の足を止めていてくれるのだろうか?
なんとか行けそうだ。
といっても、銃を持った相手にどうするのか?俊弥は何も考えていなかった。