SEARCH OPERATION

『とりあえずキャメイさん、制御室に行きましょう』俊弥達が食堂に戻ってきたのを見て、ドミニクが言った。
『制御室?』と寺田。
『そこならこの発射プラットフォーム内の全てのカメラ、センサーの情報がわかります。案外ここの中は広いので闇雲に探しても。それから他の見学者のみなさんは、ヘリで近くに待機している司令船に移動しておいてもらいます』
『わかりました。テラダさん、ミムラさん、レイナ姫、一緒に来てください。ワンさんは司令船に戻っていて頂けますか?それから…』キャメイはそう言うと自分の携帯電話を取り出してどこかに電話を始めた。
『繋がるかな?』キャメイはそう言っていたが、無事に繋がった様で、俊弥には聞き取れないスピードで何事か話をしていた。英語だろうか?それともこの国の言葉?
携帯で話を続けるキャメイを連れて、一行は別のフロアにある制御室へと移動した。さきほどの食堂と比べるとはるかに狭く、またいかにもそれらしい機械というかモニターやキーボードが設置された無骨なデザインの部屋に一行は案内された。
『ここの作業者は全員無線タグ付きのIDを身に付けています。人体センサーやカメラに反応があっても、IDの反応がなければすぐにわかる仕掛けになっています』ドミニクはそう説明しながら手元のキーボードを叩いた。目の前のモニターにプラットフォーム全体の3D画像が表示される。これまたいかにもな、映画にでも出てきそうなワイヤーフレームの3D図面で、その中に人がいる箇所らしき光点が煌いていた。
『ほら、この赤い大きな点が食堂にいるゲストのみなさん、こっちが今我々が居る制御室です。あと青い点は登録済みの作業者で…』そこでドミニクは黙り込んだ。
『どうしました?』キャメイがドミニクに問いかけた。
『いや、B班は休養のために昨日全員プラットフォームを降りているはずなんだが…、なんで残ってるんだ?このシステムは登録済みの作業員とそうでない人間の区別はできますが、いつ何人居るのが正しいってところまではチェックできないんですよ。作業の都合でどうしても突然作業者を増やしたりすることもあり、チェックを厳密にやりすぎると常にエラーが出てしまうので…』
俊弥はその説明を聞いて思わず寺田と顔を見合わせた。どこも同じやな?この手のシステムにはどうしても穴が出来る。寺田はそう言いたそうな顔をしていた。
『これだ、第3層、第8区画、ここから4層下ですね。何人かうちの作業員が一緒に…B班連中?とにかく行きましょう』ドミニクはそう言うと近くの机からPDAの様なものを手にとった。
『それは?』俊弥がドミニクが持った機械を指差した。
無線LANでここのシステムの情報を読み出せます。これを持っていれば、あの男の子が移動してもすぐにわかりますよ』
一行は制御室を出て、パルが居ると思われる場所への向かっていった。
制御室を出る間際にキャメイが壁際にあった何かのボックスを開けて黒っぽいものを取り出した。
キャメイさんそれ?』ドミニクがとまどった顔をしたが、キャメイはいいからという顔をして一行を制御室から外に出させた。



「パルーいるかー?」俊弥の声が鉄骨剥き出しの無骨な施設内に響き渡った。日本語で叫んでいたが、俊弥はそんなことには構っていなかった。自分の名前が聞こえれば意味などわからなくても返事するだろう。母国語のほうが腹から声が出て良く響く。俊弥はそんな風に思っていた。
『おかしいですね。確かにこのあたりにいるはずなんですが』ドミニクは例のPDAを操作しながら、人の位置を示す光点を確認していた。
『うーん、少し移動したかな?でもこの位置だと』
『何?』レイナがドミニクのPDAを覗き込んだ。
この国の王女に近くで覗き込まれてドミニクは少し緊張した様子で説明した。
『外に出ているかも』
『外?』
『プラットフォームの上層の構造物の底の部分の下側に吹きさらしのキャットウォークが何層か走っています。色々なメンテナンスの作業用ですが。下は海で、周りにこのプラットフォームを支える太い脚部とか、みなさんが乗ってきた作業用エレベーターとかが見えます。少々怖いかもしれませんが、中々ステキなところですよ?』
最後の一言はジョークなのかもしれなかったが、それを聞いてレイナは少し蒼ざめた様だった。



「うお!」
『キャ!』
鉄製の扉を開け、外に出た途端に一行は声を上げた。海から吹き上げる風が一行に叩きつけられる。上を見ると巨大な天井の様に海上発射プラットフォームの上部構造部が覆いかぶさり、周りには金網や鉄柵に囲まれたキャットウォークが縦横に走っている。
キャットウォーク自体が何階層かに折り重なっていて、さしづめ空中の3D迷路の様である。
下を見れば10メートルくらい下に海水面が広がっている。
下手な落ち方すると、骨折程度じゃ済まないな、これ。俊弥はそう思いながら吹きすさぶ潮風に逆らって周りを見渡した。
左腕に強い感触を感じて視線を向けると、レイナが腰を落とし気味にしてしがみついていた。無理も無い、正直自分でもここはかなり怖い。
「レイナ!怖かったら中に入って待ってなよ」
「大丈夫、レイナも行くけん」どう見てもやせ我慢だったが、とにかく自分も行くとレイナは主張した。
仕方なく、怖がるレイナを抱き寄せる様にしながら、ゆっくりとキャットウォークを歩き始めた。
『ドミニクさん!一体どこにパルは居るんだ?』俊弥が大声を上げた。風がプラットフォームの構造物を吹き抜ける際の風きり音が酷く、大きめの声を上げないと聞こえ辛かった。
『えーっとですね』ドミニクはそう言いながらPDAの画面と周りを見比べていた。
『こちらです』ドミニクが一行はドミニクが指差した方角を見たが、よくわからなかった。キャットウォークは基本的に吹きさらしで、それゆえ視界が良かったが、構造物がやたらに多く、また強い風で目を開けづらいこともあって、中々周りの様子を見通すことができなかった。一行はとにかくドミニクについて移動した。


『あ、あれ、あれじゃないですか?』しばらく移動したところでキャメイが空中の1点を指差した。
「ああ、なんか人がおるで」寺田が日本語で叫んだ。
全員がキャメイの指差す方角を見た。そこには別のキャットウォークが走っており、人影らしき集団が見える。その中には子供らしく小さな影もあった。
「パルー、居るのかー?」俊弥は風に負けじと大声で叫んだ。それでも相手まで届いているかは微妙だったが。
『…』何か反応が返った様だったが、良く聞き取れなかった。
「今何か言ったか?」俊弥が日本語でつぶやく。
「良く聞こえんかったと」とレイナ。
「パルー」もう一度名前だけを叫ぶ。

ダーン!

何かの衝撃音が聞こえた。俊弥と寺田の間の鉄柵から一瞬火花の様なモノが散った。
『みんな伏せて』キャメイが叫んだ。
『できるだけ太いパイプとかの影に移動して』

ダーン!

もう一度。

銃撃?信じたくは無かったが、俊弥はその状況を理解した。俊弥とレイナはちょうどプラットフォームの下側にある大きな構造物と構造物の間を走るキャットウォークのど真ん中に居た。俊弥は自分の体を半分レイナにかぶせる様にしながら、ずりずりと移動を始めた。
「レイナ、動ける?あっちの大きなパイプの影に行くよ?」レイナは俊弥の呼びかけに小さくうなづいた。

俊弥、レイナ、寺田とキャメイ、ドミニクの二手に分かれて、キャットウォークの両側にじりじりと移動した。

『トシヤー』パルの声だ。そして三度銃声。今度は大きく外したのか、上の方の別のパイプから火花が散った。
くそ、毎週毎週楽しいことだらけだな。キャットウォークの端の物陰に辿り着いた俊弥は自分のおかれた状況の理不尽さに誰にともなく怒っていた。
「トシヤ」今度はレイナが不安そうな声で小さく呟く。
それを聞いて俊弥は少し落ち着きを取り戻した。
「大丈夫、大丈夫」俊弥はそう言いながら、何度かレイナの肩をポンポンと叩いた。