MISSING CHILD

「いやー暑かった」俊弥は船橋内に入ると近くに自販機を見つけてコーラを1本買った。普段はコーラは避けているのだが、時たま無性に飲みたくなる。
500mlの大型缶のプルトップを開け、炭酸の入った濃い味の液体を喉に流し込むと生き返った心地がした。
「おいしそう。レイナも飲む」先に屋内に入っていたレイナがコーラを飲む俊弥を見つけて近づいてきた。
「ちょっと貸して」そう言うとレイナは俊弥が持っていたコーラの缶を有無を言わさず奪い取り、ごくごくとうまそうに飲んだ。
「ありがと」レイナは子供の様な笑顔で俊弥の前にコーラを差し出した。俊弥はそれを受け取りながらやれやれという顔つきで近くにいた寺田の方を見た。寺田は黙ってニヤニヤしている。
「なんね?」とレイナ。
「人の飲んでる缶ジュースに口をつけるなんてはしたないですよ、お姫様」俊弥は半分ふざけてそう言った。
「別に問題なかね」レイナは気にする様子も無い。
俊弥は手渡されたコーラの缶の飲み口を見て、一瞬ためらったが、再びごくごくと飲み始めた。一行はここへ来た時と同じ様に食堂へと向かった。

食堂に戻ると、ドミニクは先ほどの大型モニターの前でモニターに繋がったパソコンを操作し始めた。何かを探している様子だ。
『ああ、あった。これがいい』ドミニクはそう言って、パソコンの画面をモニターに映し出した。画面にはCGで作られたとおぼしき地球の絵が表示されている。
『えーっと、パル君?』ドミニクはパルの名を呼んだ。
『あれ?まだ戻ってないのかな?パル君居るかい?』返事が無い。
『あの坊やに地球の重力と自転による遠心力の話をするためにここに戻ったんだが』ドミニクは困惑している。
俊弥は周りを見渡したがパルらしき姿は見えなかった。
ついさっきまで自分の横にくっついて来てたはずなのに。俊弥は寺田、王(ワン)、キャメイ、レイナと順番に知っている顔を眺めたが、みんな一様にかぶりを振っている。
「トイレにでも行ったんじゃないですか?」とキャメイ
「ちょっと見てくる。ドミニクさんに少し待ってもらってくれるか?」俊弥はキャメイに後を託して食堂を離れた。寺田とレイナが後に続く。
食堂を出て廊下を見回すと、すぐ近くにトイレを示す案内板が見つかった。まずはそちらに行き、寺田と二人で中を調べたが子供の姿は無かった。
「上の階ちゃうか?」寺田に言われ、上部甲板と同じ階に近くの非常階段から上がる。
「パル〜、どこおると?」レイナが大きな声であたりに呼びかける。
「レイナ、日本語じゃわかんないよ」
「名前を呼べば反応するよ」
そんなやりとりをしながらパルの姿を探すが見当たらなかった。
「行き違ったんちゃうか?もう食堂に戻っとるかもしれんで?」寺田が食堂に戻ろうと提案した。
ピリリリ。その時俊弥の携帯電話が鳴り出した。こんな海の真ん中で携帯が使えるのか?中継設備がこのプラットフォームにあるのかな?そんな風に思いながら俊弥は電話を取った。
キャメイです。見つかりました?」キャメイの声だ。
「他の人たちに聞いたんですけど、誰もパルのことこのあたりで見かけて無くて」
「まだそっちには現れてないの?」と俊弥。
「はい。あの、」
「何?」
「もしかしたらあの子。その、この前の事件の時に特に本当に深い政治的動機とかは無いことを確認してあるんですけど、」
俊弥はキャメイの言わんとすることを理解した。
「パルはいい子だ」
「そう、ですよね」キャメイは力なく言った。
「あの子は家族を守るためならなんでもするだろうな。そういう子だ」
「え?それって」
「ロケットの打ち上げとあの子の家族や部族に何か関係あるとは思えないが。いや、俺もパルを信じているよ」少し俺も混乱しているな。
「あ、ちょっと待って下さい」キャメイは近くにいる誰かと話はじめたようだ。すぐにキャメイは電話に戻ってきた。
「あの、パルが一度この建物に入ってから、すぐに外に出て行ったのを見た人がいます」
「何だって?」俊弥は知らず声を荒げた。
「どないしたんや?」寺田がけげんな顔をする。
「パルはどうやら外に出た様だって」
「みんなで手分けして探してもらうしか無いっちゃね」レイナはそう言うと俊弥の携帯をうばいとった。
キャメイ?レイナっちゃ。みんなに話をしてパルの捜索に協力してもらって。ロケットの発射施設には危ないところもあるっちゃろ?一度こっちも食堂に戻るから」レイナは言うだけ言うと、電話を切って携帯を俊弥に手渡した。
「とにかく戻ろ?」レイナの言葉に従って、3人は食堂へと急いだ。