DINNER TIME

『お、今日はみそ汁あるよ』俊弥は一緒に夕食を食べに食堂に入ってきた王(ワン)に嬉しそうな顔をして見せた。よくよく見るとみそ汁だけでなく、今日の夕食は焼き魚、豆腐など、日本食が盛りだくさんだ。
ここに来たばかりの時に知り合ったチャーリー王(ワン)とは、職場でも良く顔をあわせるため、馴染みになっていた。
『ケガはもう大丈夫?』王はクルーザーでの事件で俊弥が負った傷のことに触れた。
『ちょっと疼くかな。まあ、傷口はふさがったし、どうってことは』
クルーザーでの事件から約2週間が過ぎようとしていた。今日は金曜日。この島に来て間もない俊弥にとって仕事は相変わらずいっぱいいっぱいの状態だったが、今日は珍しく早く帰宅し、王宮の食堂での夕食にありついていた。
早く帰って来れない時は、職場の近くの店で買ったサンドイッチなんかで終わらせることが多いのだ。

ごはんにみそ汁、正体不明の白身の焼き魚、コロッケとキャベツの千切り、豆腐にたまねぎのスライスをのせたの冷奴、枝豆風の豆が俊弥の今晩のチョイスである。枝豆風と言うのは、数日前にも同じものを食べたのだが、見た目は枝豆そのものだが、何か味が違うのである。それでも割と好みの味だったので、気にしないで同じものをとっていた。
王もだいたい同じモノを取っていたが、みそ汁の代わりに何かのポタージュスープを選んでいた。
ふたりは適当に空いているテーブルに座ると、早速食事にパクつき始めた。

「トシヤ見つけた!」
不意に背後から女の子の声が聞こえた。レイナの声だ。
「ちょっと待っててねー」そう言うとレイナは自分の夕食を取りに行った。
『今の日本語?』王がレイナの後ろ姿を追いながら聞いた。
『そうだけど』
『ホントにトシヤはお姫様に気に入られているねえ』王は俊弥の方に視線を戻すとニヤニヤと笑う。
『そんなこと無いって。彼女はここの誰とでも気軽に話すだろう?』俊弥はまたそれかとうんざりしたような様子で言葉を返した。
『そうかねえ?』王は相変わらずニヤニヤしたままだ。
『だいたいに気に入るも何も、まだここに来てから3週間、そんなに彼女と話す機会だって無いんだぜ?』実際俊弥はここで仕事を始めてから、帰る時間は遅く、夕食時間に会うことは稀だった。朝食も取らずに仕事に出かけ、オフィスでパンなどをパクつくことが多くなっている。
先週末の休みでも王宮内でチラっと顔を合わせた程度で、あまり話をした記憶は無かった。
キャメイとは同じビルで仕事をしているせいか、なにげに良く顔を合わせてはいたが。というより、彼女は自分から寺田や俊弥のいるオフィスに顔を見せることが多かった。
若くて見た目も良いので、結構オフィスのメンバーには人気がある。
ただ、オフィスで見せる顔は普通の17歳の少女とは異なったものだが。

『お待たせー』そんな物思いを打ち破って、レイナが俊弥の隣に座った。今度は英語だ。
『王さん、ごきげんいかかが?』レイナはすました感じで王にあいさつをした。
『とてもいいですよ。姫も今日も可愛らしいですね』王はにこやかに返す。
『そんなこと無いですよー』レイナはそう答えつつ嬉しそうだ。
レイナのその様子を見て俊弥は軽く吹き出しそうになった。
「何笑っとー?」レイナが不思議そうな顔で俊弥を見る。
『いや、なんでも』俊弥は英語で答えた。
レイナの持ってきたトレイにはソーセージやマッシュポテト、パンケーキなど、洋風の食べ物が並べられていた。それを小さく切って口に運び、幸せそうな顔をする。
『ん?何見てるの?なんか嬉しそう』
そんなレイナの横顔を見ながらいつの間にかにやついていたのだろうか?レイナにそう指摘されて、俊弥は慌てて前を向き、自分の食事を食べ始めた。
二人の対面にいる王がまともやその様子をニヤニヤしながら見ている。

『ところで』俊弥は隣のレイナに向かって、ふと思いついたことを尋ねてみた。
『国王ってここでは食事しないの?ここに来た時に王族もみんなこの食堂で食べてるって聞いたけど』
『国王って?レイナのパパ?』レイナが何?という顔で聞き返す。
『そう、レイナのパパがこの国の王様なんだろ?まだここに来て一回も国王を見たこと無いから』
『レイナのパパは外遊中』
『もう2か月になりますかね?』王が口を挟んだ。
『2か月?』と俊弥。
『今、パパはアメリカに行って色々と交渉とかしてるらしいよ。キャメイに聞いたんだけど。帰ってきたらトシヤに紹介するよ』レイナはエヘって感じの顔で俊弥にウィンクをした。正直、こーいうレイナの表情にはかなり来るモノがあるな。いわゆる萌えるって奴だろうか?レイナの表情に少しドキっとしながら、俊弥はそれを悟られまいとわざと固い表情を作った。
『そうだ!トシヤと王さん、明日ヒマ?』レイナは不意にそう聞いた。
『私はヒマですが?』王がすぐさま返事をする。
『トシヤは?』
そう聞かれて俊弥は少し逡巡した。土日は何もせずに寝て暮らしたい気もするし。ケガはだいたい良くなってはいるが…
『何か予定あるの?』レイナが少し寂しそうな顔で俊弥を見た。どうもレイナのそういう顔に抗えないらしい。
『いや、ヒマだけど』俊弥はついそう答えてしまった。
『じゃあ、明日ロケットの発射施設を見学にいこう!』レイナはうれしそうな顔で二人にそう告げた。
『ロケット?』
『そう、来週発射予定のロケットの発射台を見学できるって。キャメイが手配してくれてるの』
そういえば、ここへ来て二日目だったか。日本人のベテラン機械工、たしか岩さんと健さんの工場を見学した時にそんなことを言っていたな。二人ともあれ以来会っていないが。『ね?行くよね?』レイナにそう促されて、俊弥はうなずくしか無かった。