IN THE CABIN

俊弥はクルーザーのキャビンでソファに横になっていた。小さなキャビンを囲む様にソファが設置されており、俊弥の反対側のソファにはレイナが横になって休んでいる。
二人ともTシャツにショートパンツのいでたちである。俊弥のショートパンツはクルーザーの船長が予備として持ってきたものを借りていた。お腹まわりがぶかぶかなのをベルトで無理やり止めていた。

午後2時、まだ日は高かったが、レイナと俊弥の体調を心配してクルーザーは島に引き返そうとしていた。

「トシヤー、大丈夫?」レイナがへなっとしたカンジで声をかけた。
「あ、ああ、もう大丈夫だけど」そう答えながらもいまひとつ体に力が入らない。
「ふふーん」レイナがちょっとおかしな調子の声を出す。
「?」俊弥は何だ?という表情を返す。
「えへへー」レイナはソファにうつぶせになり、なぜか手足をばたばたさせた。
なんか、ネコみたいな子だな、レイナは...俊弥はなんとなくそんな風に思いながら、レイナの様子を見ていた。
「何ー?」レイナはきょとんとした顔で俊弥を見つめる。
「ネコみたい」俊弥は小声でつぶやいた。
「え?何?」
「なんでもー」そう答えながら、まだ15,6の女の子とこんなやりとりをしている自分がおかしくてしょうがなかった。癒されてるのかな、自分は。それとも...


「あのさ」俊弥はふと思いついた様に喋り始めた。
「何?」
「こーいうのって」
「こーいうの?」
「こーいうクルーザーとかで遊ぶのって」
「なんね?」
「良くあるの?」我ながらつまらない質問だ。なんとなく何か話をしなければと思って切り出したのだが..
「んー、あんまりなか」レイナは短く答えた。
「あんまり?」
「全然」レイナはそう言って笑う。
「本当はこの船は海のなんかの調査とかに使っとるけん。今日は特別」
「王様の遊び用じゃないんだ」
「そんな贅沢な遊びとかせんよ」こう答えるレイナは急に大人びた表情になった。
「もしかして」
「ん?」
「俺のため?今日、こんなのを用意してくれたのは」
「かも」レイナはいたずらっぽく笑う。その笑顔が俊弥には少しまぶしく感じた。
目が合うとどうにも気恥ずかしい。
「この島に来たばかりの人が早く慣れてくれる様に、ここを気に入ってくれるように。キャメイは一生懸命やけんね。キャメイは本当に大変っちゃ」
「そっか」
「だから、キャメイを助けて上げて欲しいと」
「ん、そうする」キャメイだけでは無いのだろう。レイナも多分一生懸命にキャメイに協力しているのだ。
「レイナもさ」
「何?」
「レイナもあんまり俺に気を使わないでいいからさ。キャメイに協力してるんだと思うけど。俺は大丈夫だよ。ここはいい島だし、当分ここを出て行ったりもしないし。なるべくみんなの役に立てる様にがんばるからさ。この国のお姫様が俺なんかにあんまりかまってくれなくても大丈夫だから」
「んー」レイナはその言葉を聞いて少し表情を曇らせた様に見えた。
「お願いするっちゃ」


「ところでさ、王様、つまりのレイナのお父さんは忙しいの?結局この一週間一度も姿を見ることができなかったけど」俊弥は話題を変えて、この国の国王のことに言及した。先週の説明では、俊弥達が住んでいる王宮に国王も住んでおり、食事なども王宮の居住者達と一緒に取るという話だったが、まだ一度も姿を見たことが無かった。
「今、お父さんは外国に行ってるっちゃよ。当分帰ってこんと」レイナが少し寂しそうな顔で答えた。
「あーそうなんだ。でも王様が居ないと色々と困らないの?国全体のこととか?」
キャメイのお父さんが色々やってくれとると。キャメイもがんばってるし」レイナは何かを訴える様な目で俊弥を顔を見たが、俊弥にはそれが何を意味しているのかよくわからなかった。
「そのうち俺も会えるのかな?」
「帰ってきたらすぐに紹介するっちゃよ。レイナのボーイフレンドですって!」レイナは満面の笑みの浮かべた。
「いや、それはちょっと...」レイナの言葉が冗談だとわかっていても、俊弥は少し顔が紅くなっていた。
なんと返してやろうか?そんなことを考えていた刹那。


どーん!

鋭い衝撃がキャビン全体を襲った。俊弥もレイナも突然の衝撃に横たわっていたソファを掴んだが、俊弥の方が衝撃に耐え切れず、床に転げ落ちた。

すぐに外の甲板からざわついた声や、怒号が飛び込んできた。