SERGEANT MIKITTY

クルーザーの乗員が舷側に降ろしたはしごを昇って、ゴムボートに乗っていた女性と数名の兵士らしきメンバーがクルーザーに乗船した。
リーダーらしきその女性は甲板に出てきたクルーザーの船長となにやら話を始めた。
女性の声は割と大きめなので、少し離れたところに立っている俊弥達の耳にも入ってきたが、比較的早いスピードの英語のため、十分には聞き取れなかった。しかも中には英語ではない単語らしきものも混ざっている様に感じられた。見た目は割と若い感じの女性であり、端正な顔立ちをしているらしいことは、少し離れた位置に立つ俊弥にも見て取ることができた。
他の兵士達は一応持っている銃は降ろしているものの、物々しい雰囲気を漂わせている。
キャメイが状況を心配したのか、ひとりで船長と乗船してきた女性の方に向かって歩き出した。俊弥はそのキャメイのことがさらに心配になり、キャメイの腕に手を伸ばして引きとめようとした。と、その脇をレイナは素早くすり抜けて、船長達の方に駆け出していった。
「ちょっとレイナ、危ない」俊弥は思わず声を上げた。
『REINA?』俊弥の声に、船長と話をしていたミチシゲの女性兵士が反応した。その眼前に駆け寄ってくるレイナ。ミチシゲから乗り込んできた兵士達の顔に緊張の色が走った。俊弥も思わず、レイナを追って駆け出したがその時にはレイナはミチシゲから来た女性兵士に抱きついていた。
とほぼ同時にミチシゲの他の兵士達が直立不動で二人の方を見て敬礼した。
「レイナ!」俊弥は船長達のそばに駆け寄った。キャメイと寺田も後に続く。
『Reina?Why are you here?Is this....』レイナに抱きつかれたその女性は驚いた顔でレイナに何かを尋ねていた。レイナはそれにさらさらと答える。それからレイナは俊弥達の方を向いて微笑んだ。周りに居た兵士達も二人の会話を聞いて、少し表情が緩んだ様だ。
「大丈夫っちゃよ」レイナは笑いながら言った。
「彼女は?」俊弥が聞いた。
ミキティ姉さん」
「姉さん?」
「あー、本当の姉さんじゃなかね。でもそう呼んどると」
ミキティと呼ばれた女性は俊弥達の方を向いて英語で自己紹介を始めた。
『レイナ王国海軍軍曹ミキ・ティファールです』
『どういうことですか?このクルーザーは王室管理下にある専用船ですよ?』キャメイが険しい顔付きでミキを問い詰めた。
『申し訳ありません。最近、この付近で海賊行為がありましてパトロール中でした。一応念のために付近の航行中の船舶を臨検しています』
『王室専用クルーザーの見分けもつかないのですか?』キャメイがさらに険しい表情になる。
それを聞いたミキの顔が少しムッとした表情に変わった。
『そんなこと言ったってねえ、このクルーザーなんか前と改装されてるんじゃん。それに王室の専用の旗を出すのを忘れてるでしょ?それが無ければどの船も同じ扱いだよ』
激しい口調で早口になったため、俊弥には全ては聞き取れなかったが、いわゆる逆ギレ状態になっているのはわかった。旗の話を聞いて船長が確かにそうなんだと、目でキャメイに合図を送っていた。
『ミキねえ』レイナがミキにささやく様に声をかける。
『ああ、ごめんなさい。クルーザーを止めたのは申し訳無かったですが、こちらも規則どおりにやっているので。そもそも王室のクルーザーを使うなら海軍にもきちんと届けてもらわないと』ミキはまだ怒った顔をしている。それを聞いてキャメイがあ!っと言う顔をした。
「あー、忘れてた」ミキに聞かれない様にか、日本語で俊弥と寺田にそう言ってペロっと舌を出して見せた。
ミキはそんなキャメイには構わず、持っていたハンディ無線機に何事か話しかけた。本船に状況を伝えているのだろう。
『ところでそちらの方は?』ミキは新参である俊弥の顔を見て言った。寺田はミキに向かって軽く手を上げて挨拶している。どうやら面識があるらしい。
『日本からきたミムラ・トシヤです。テラダと一緒に仕事をさせてもらってます』どうやらミキには日本語は通じないと考えて、俊弥は英語で自己紹介をした。握手をしようと右手を差し出したが、ミキには簡単にスルーされた。
『ふーん、最近来た新しい人?なんでこのクルーザーに乗ってんの?』英語なのではっきりとはわからないが、かなりぶっきらぼうなニュアンスでしゃべる人だなと俊弥は考えた。軍曹と言っていたが、まだかなり若そうである。顔は端正なのだが、いかんせんぶっきらぼうで愛想が無い。
『トシヤはレイナの友達だよ』レイナはそんな風にミキに説明した。
『友達ねえ。レイナも物好きだねえ』ミキはそう言うと、ぐいっと顔を俊弥に近づけた。互いの息がかかるほどの近さに、俊弥は少しドキっとする。
『レイナはうちのお姫様だからね。あんまり馴れ馴れしくしすぎない様にね』
『そんな風に言うことは無いんじゃないですか?』キャメイが割って入る。
『あんたこそね、レイナに変な男を近づけるんないよ』ミキは今度はキャメイの顔をぐいっと睨みつけた。
『あー、もう喧嘩みたいなことはしないで』レイナが体ごと二人の間に割って入った。
『とにかく邪魔して悪かったよ。この辺、海賊が出ることがあるから本当にそれだけは気をつけて』ミキはそう言うと、他の兵士達に声をかけ、クルーザーを下船して駆逐艦ミチシゲに戻っていった。

ミチシゲはゴムボートを回収するとクルーザーから離れて、近隣に居る別の船への近寄っていった。

「すみません、びっくりさせて」キャメイが俊弥と寺田に向かって頭を下げた。
「あ、いや、君が謝らなくても」
「いや、相変わらず怖いお姉ちゃんやなー」寺田は離れたところを航行するミチシゲを見ながら肩をすくめて見せた。
「ミキねえはこの国を守るために一生懸命だから」レイナがかばう様に言った。
「彼女はレイナの親戚か何か?」俊弥が尋ねた。
「違うと。でも小さい時に良く遊んでもらったと」レイナはそう言って笑った。
キャメイもね」思い出した様に付け加える。
「にしては...」俊弥は先ほどのキャメイとミキの様子を思い出しながら言った。
ミキティは頑固なんですよ」キャメイが拗ねた様に言う。仲が悪いというより、お互いになんとなく苦手なのかな?俊弥はそんな風に思った。

「あの駆逐艦ミチシゲって、3か月前に就役した艦やな」寺田が思い出した様にいった。
「ええ、米軍から貸して貰った船で、ゲリラとか海賊対策用に色々と改修しています。もう一隻、駆逐艦コハルを改修中で、この2艦がレイナ王国海軍の主力艦です」キャメイが説明した。
「そんなこともういいから遊ぼうよ」レイナがまた俊弥の服を軽く引いた。
「トシヤもそのまんま海に入ればよか。港に着替えを持ってくる様に頼んでおけばよかね」結局、レイナの強引な誘いに負け、俊弥は上半身だけ脱ぎ、今はいているハーフパンツのまま海に入ることになってしまった。