DESTROYER MICHISHIGE

「どうですかミムラさん、気に入ってもらえまして?」キャメイはニコニコと笑いながら俊弥に話しかけた。
「1週間、とりあえずお仕事お疲れ様でした。少しは慣れましたか?」
「あ、いや、まだなんとも」俊弥は口ごもる様にぼそぼそと答えた。
「まだわからんっちゃやよねー?」レイナが明るい声を出しながら俊弥の顔を覗き込む。1週間ぶりに会うお姫様のくったくの無さに俊弥は戸惑ったままであった。
「このクルーザーは誰の持ち物なの?」俊弥は何か話をしなければと、クルーザーについての質問を始めた。
んーという感じの顔をしたキャメイは少し間をおいてから話し始めた。
「このクルーザーは簡単に言えば国王の持ち物ですが、公式はレイナ王国政府の所有物ですね。外国からのお客様をおもてなしするために使うのが本来の目的ですが、特に公務が無いときは外国からこの島に来ている色々な専門家の方を招待して楽しんでもらったりしています。」
「今日はレイナたちの貸切〜!!」レイナがはしゃいだ感じで割ってはいる。
「本当はこの船はレイナ王国海軍の警備艇だったんですよ?それを装備を外してレジャー用に改装したんです」
「ああ、それで」俊弥は納得した様にうなずいた。
「なんね?」
「いや、この船って船体がグレーだから...豪華なクルーザーっていうと白ってイメージがあるから」俊弥は船体の色について指摘した。彼らの乗るクルーザーは確かに船体がライトグレーで塗られており、レジャー用のクルーザーにしては少しそぐわない感じだった。
「なんか塗りなおす話もあったらしいで」寺田が補足するように言った。
「ええ、でも予算不足で」キャメイが苦笑いしながら答える。
「お金持ちの国だと思ってたんだけど」俊弥は悪気無く思ったことを口にした。
「いえ」キャメイの表情が少し曇った。「たしかに潤っては居ます。でも無尽蔵にお金があるわけじゃないですから」キャメイにしては少しつっけんどんな口調になっていた。
「もう、トシヤはまだうちらの国のこと何もしらんっちゃよ」レイナがキャメイをたしなめるように言った。
「そ、そうですよね」キャメイは務めて明るい口調に戻していた。
「ところで海軍って言ったけど、この国には三軍が存在するの?」
「サングン?」レイナが不思議そうな顔をした。
「つまり、陸軍、海軍、空軍の三軍」俊弥が補足する。
「えーっと、基本的にレイナ王国の軍隊は海軍だけです」キャメイが説明を始めた。
「陸軍にあたる機能は海軍が兼務しています。海軍といっても、NavyではなくてCoast Guardと呼んだ方がより近いかもしれません。島の寄り集まった国なので、基本的に海を守るのが仕事ですね。空軍と呼べる軍隊はこの国には居ません」
「居ない?」俊弥が確認するように聞いた。
「はい。国際空港にアメリカ海軍の戦闘機が居て訓練飛行をしているぐらいで」
「まあ、そもそもこの国は他国からの侵略とか言うより、近海で発生する海賊行為対策の方が大変なんや」寺田が訳知り顔で付け足した。
「もう、そんな話は良か!」レイナが俊弥の服の袖を引っ張った。
「トシヤ泳げる?船止めてもらった、ちょっと泳ごう?イルカも寄ってくるかも」
「いや、でも水着とか持ってきて無いし...」
「えー、つまらんと」レイナはわざとらしく頬を膨らませて見せた。
「じゃあ、今度水着とウェットスーツ買いにいこ?」
「え、あ、ああ」俊弥は曖昧な返事を返した。

ボー、ボー

不意にクルーザーの後方から汽笛の様な音が聞えた。続けて、

「.......stop..immediate......」

スピーカーか何かで増幅した早口でまくしたてる声。英語らしいが俊弥にはほとんど聞き取れなかった。全員が音のする方を振り返った確認した。

いつの間にかクルーザーから数100mの距離にグレーに塗られたいかつい船が接近してきていた。見た感じ軍艦らしい。
その艦からは続けざまにがなりたてる様な声がスピーカーで増幅されて飛んでくる。
「あれ、何言ってるかわかります?」俊弥は寺田に聞いた。
「なんか、止まれ言うてるな」
俊弥がクルーザーの操縦室を見ると船長がクルーになにやら指示を出している。クルーザーは徐々に減速を開始し、やがって完全に停止した。
クルーザーのクルーが前部の甲板に走ってきて、小型のシーアンカーを海に落とした。
クルーザーの左舷側にさっきの艦がゆっくりと近づいてくる。クルーザーとの距離を数10m空けたところで艦は停船した。俊弥達が相手の艦の様子を見ていると、艦の乗員達がモーター付きのゴムボートを海面に下ろし、数人の乗員が乗り込んでクルーザーへと近づいてきた。

ボートの先頭には鋭い眼差しの女性が薄いグレーの制服をまとって、仁王立ちで立っていた。その後ろに別の乗員が数名。よく見ると銃らしきものまで持っている。

「あの姉ちゃん、良くボートの上で立ってられるなあ」寺田が感心した様にのんきな口調でつぶやく。
「あの船は?」俊弥はキャメイの方を見て聞いた。
「あれは...海軍の駆逐艦ミチシゲですわ」
駆逐艦ミチシゲ....」