OCEAN CRUISE 2

朝、なんとも言えない寝苦しさを感じながらも前夜までの疲れからか、とにかく布団をかぶって寝続けようとしていた。
昨夜カーテンも閉めずにベッドに倒れこんでしまったため、窓からは明るい陽射しが差し込み、俊弥の眠りを邪魔しようとしていた。そんなに何時間も寝た感じではなかったが、それにしても体が重い。一体どれだけ自分は疲れているのか?そんなことをぼんやりと考えていると、耳元に何かの声が聞えた。
「・き・ろ」最初は幻聴だと思った。しかしさっきから体が重いし、なんとなく自由が利かない感じがする。
「お・き・ろ」今度ははっきり聞えた。そもそも自分ひとりの部屋だ。携帯の目覚ましにもこんな声を吹き込んだ覚えは無い。俊弥はうつぶせになったまま、枕に顔を埋めてもう一度眠りに落ちようと務めた。
「もー、トシヤ起きるっちゃ」
俊弥はがばっと顔を上げた。今のは....そんなことは.....そう思いながらゆっくりと体をひねって後ろを見た。
「やーっと起きたね」そこにはにこにこと笑う少女の姿があった。
「レイナ・・・姫?」
「ピンポーン♪って、もうレイナの顔忘れたと?まだ1週間経ってなかね」レイナはわざとらしく頬を膨らませて見せた。
1週間...そう、月曜日から金曜日までの5日間は新しい職場とこの部屋の往復だけで、同じ屋敷内に住むはずのレイナの姿を見かけることも無かった。
最初の2日ほどはなんとなく残念にも思ったが、これが当たり前なんだと思う様になった。王宮に住むという特殊な状況とは言え、彼女はこの国の姫君である。この国に来て最初の2日間の出来事は新しくこの国のために働くことになった外国人のための、この国流のもてなしなんだろうと納得していた。

そのお姫様があろうことが自分が寝るベッドの上に座っている。さっきから重苦しかったのは彼女が上に乗っていたせい?そう思うと不覚にも顔が火照って来た。
「レ、レイナ姫?あの、ここで何をして?」自分でも不思議なくらい怖る怖る訊ねた。
「トシヤを起こしたにきたと」
「な、なんで?」
「これから一緒に遊びに行くっちゃ。キャメイも来るっちゃよ」レイナは無邪気にそう言った。
「いや、あの」
「なんか用事あると?」
「いや、何も」
「良かったー。今日も楽しいところに案内するっちゃね」良くわからないがレイナは上機嫌である。
「これから行くの?」
「もちろん。早く着替えて下に来てね?今日も暑いからなるべく軽装で。あとで日焼け止め貸すからちゃんと塗らないと大変なことになるよ?」
うーん。俊弥はまるでマンガの様に頭を抱えた。
「俺、シャワー浴びたいんだけど。だからちょっと時間かかるけど」
「うん。じゃ、下で待ってるね?」レイナはぴょんっとベッドから飛び降りた。
「あ、ところで....」
「何?」
「どうやってこの部屋に入ってきたの?」
「鍵、開いてたよ?」レイナはくすくすと笑った。
「ここは警備の兵隊さんもいるし、安全だけど鍵くらいはかけたほうがいいっちゃねー」
はー、っと俊弥は大きな息をして、自分の枕に顔を埋めた。
「あー、もう、また寝たら駄目よ。ちゃんと起きてー」レイナは俊弥が掴んでいる掛け布団を強引を剥がした。俊弥は下はトランクス一枚のいでたちである。
「うわぁ」慌ててレイナから布団を取り返すととりあえず腰までかぶせた。
「レイナ姫、女の子がこんな男の部屋にひとりで入ってくるなんて感心しないですよ」我ながらなんてじじくさいセリフだ。しかもなんとなく情けない感じがする。俊弥は思わず自分の口をついて出たセリフを自己嫌悪に陥った。
「はいはい、じゃ、下で待ってるねー。早く降りて来てねー。キャメイももうここに来とるとよ。あとテラダさんも」レイナはそう言いながら部屋を元気良く出て行った。
寺田!!あのおっさん、昨日何にも言ってなかったじゃん。俊弥は会ってまだ1週間の自分の上司の顔を思い浮かべた。仕事はともかくとして、なんともふざけたおっさんだと、俊弥は若作りなヤンキーおやじを呪った。

その後俊弥はシャワーを浴びた後、何の準備もないまま車に乗せられ、レイナ、キャメイ、寺田とともに島のヨットハーバーに連れて行かれ、豪華なクルーザーに乗せられて海に出たのである。