CAPE SAYU 2

「ここには守り神がいるっちゃよ」レイナは戻ってくるなり、そう話し始めた。
買ってきたジュースを俊弥とキャメイに1本づつ手渡すと、俊弥の右腕を掴んで腕を組み直した。
「守り神?」
「伝説の海獣ですね」キャメイが補足するように言葉を継ぐ。
カイジュウ?」俊弥は何?という表情で二人を代わる代わる見た。
「海のケモノと書いて海獣。シー・モンスターと言った方がわかりやすいですか?」
「ああ、そっち...」
海獣さゆみんがこの岬には住んでると言われていると。さゆみんはこの島全体を守る守り神で、ここへ来てさゆみんに気に入られたカップルは幸せになれるっちゃよ」
「はあ....で、さゆみんってどんな生き物なの?」俊弥は多少面白半分にそう聞いた。
「うーん、伝説では全長が100mくらいってことになってるけど....実際には20〜30mくらいとか言う人もいると」
「実際にはって?」
「ここ10年くらいで何件か目撃情報があるんですよ」キャメイが答えた。
「だいたい夜中に目撃したって話が多いんですけどね」
「夜ここに来たら海が光ってて、細長い光る物体がうねうね動いていたって話。それでそれは伝説のさゆみんに違い無いって騒がれてると」レイナは真剣な顔である。
俊弥はその顔に思わず吹き出しそうになった。
「夜光虫の群れとかじゃないの?日本でもその手の目撃例って良くあるけどさ。結局ちゃんと確認できた例なんて無いし」
「いーや、さゆみんはホントに居るっちゃ。この島をずっと守ってるっちゃ」
「でも怖い話もあるんですよ?」キャメイが少し話を別の方向に振り始めた。
「なんね?」レイナがキャメイの方を覗き込んだ。
さゆみんはこの島の守り神なんですけど.....時々お腹が減ると人間を食べちゃうって」キャメイはくすくすと笑いながら話した。
「それじゃあ守り神じゃないじゃん」キャメイの言葉に俊弥はオーバーに肩をすくめてみせた。
「基本的にはこの島を外敵から守っているんです、さゆみんは。でもお腹も空きますから、そのときは島の生き物を適当に食べるんですよ」
「それって自分のエサ場を守ってるだけじゃん」
「そうかもしれませんね。だからここには真夜中とかの人が少ない時に来ない方がいいですよ?」
「えー、でもレイナは好きな人ができたら、夜二人でここに来たいっちゃけどねー」レイナは自分の言葉に少し頬を紅潮させながらつぶやいた。俊弥はレイナのそんな様子をちょっとカワイイなと思い、少しからかいたくなったが、なんとなく思いとどまった。
「なんにしろ伝説なんだろ?心配する事は無いよ」
「それがそうでも...」軽くいなした俊弥に対してキャメイがそう反駁した。
「何?」レイナは不思議そうな顔でキャメイを見た。
「過去10年くらい、結構ここで行方不明者が出てるんです。ここに来るとホテルの人に言って戻ってこなかったり、車だけが残っていたり。とにかくよくわからないことがあって」
「たまたま高波とかにさらわれたとか?」俊弥が指摘した。
「そういうこともあったかもしれません。でも天気が良くて波も穏やかだった夜に居なくなったケースもあるんです。それもたいてい夜に」
「それで、夜7時にここを閉鎖してるっちゃか?」思い出した様にレイナが聞いた。
「そうなの。夏場は夜7時とか全然明るいんだけど、行方不明の原因がわかっていないので、おととしからそういうやり方にしていて」キャメイは少し真面目な顔でそう答えた。「だからミムラさんも気を付けてくださいね?間違ってもレイナ姫を夜中にここに連れてきちゃ駄目ですよ?」キャメイは真面目な顔でそう言ったが、こころなしか口元に笑みがこぼれていた。
その言葉を聞いてレイナは顔を赤くしながらキャメイに抗議した。
「それはトシヤに失礼っちゃよ!!変な事言わないで」
変な事か、ま、そうだよな。俊弥はそんな風に思いながらキャメイの言葉に冷静な口調で答えた。
「十分に気をつけるよ」
その口調は冷静というより少し醒めた感じにも聞えた。
「トシヤ?」レイナが少し心配そうな顔で俊弥を見つめた。
「ん?」
「あ、えっと、な、なんでもなか」
俊弥はキャメイ、レイナの手を振りほどいて大きくのびをした。
「ん、んー」のびをしながら周りの景色をぐると見渡す。
「ここはいい所だな」どちらへというわけでも無く俊弥はそうつぶやいた。
「ええ、いい所ですよ」キャメイがうなづいた。
「二人とも今日はありがとうな。俺さ、なんとなくふわふわした状態のままこの島に来て、まあ今もふわふわしてるんだけどさ、ちょっと頑張って見ようかって気になってきたよ。」そう言うと俊弥は少し真面目な顔になった。
「これからよろしくお願いします」俊弥は少しキャメイとレイナから離れた位置に立つとふかぶかとお辞儀をした。
それ見たレイナはぴょんっという感じで俊弥の前にジャンプして立った。
「こちらこそお願いします」レイナは俊弥に向かってぺこりと可愛らしくおじぎをしてみせた。
キャメイはその様子を見てふーっと息を吐くと真顔になった。
ミムラ君、明日からレイナ王国の発展のためにがんばってくれたまえ」
キャメイ何それ?」レイナはけたけたと笑い出した。
「一応この国の経済発展計画の責任者ですから。ちょっとそれらしく言ってみました」
「あ!」俊弥はふと思い出した様に声を出した。
「何ですか?」
「いや、今日服も買いにいきたかったんだけど...」
「まだお店開いてるっちゃよ。これから急いで買いにいくね」レイナは二人の手を取って歩きだした。

俊弥がレイナ王国に到着して2日目が暮れようとしていた。
レイナに手を引かれながら、少しだけ頑張って見ようとそんな風に考えるのだった。