GIFT SHOP 2

「とにかく、次に行こうよ、次に」レイナは俊弥とキャメイを免税店から外に出そうと大げさなアクションで二人の腕を引き始めた。

「E,Excuse Me?..」ふいに背後からたどたどしい英語で声を掛けられた。
「Are you Princess Reina? Ca,..Can I be ta...」3人が振り返ると男女2人づつの観光客らしい4人組だった。見た感じ日本人っぽい。学生か若い会社員が仲間と遊びに来たという風情である。男の声は途中で止まり、そのまま日本語で一緒にいる仲間の方に話し始めた。
「おい、写真一緒に撮ってってどう言えばいいの?」
「えっとねえ確かぁ....」

「写真?いいよ?」レイナが日本語であっさりと答えた。
「あれ?日本語?」最初に声をかけた男が少し驚いた顔をする。
「ばか、レイナ姫日本語話せるんじゃん。日本でテレビに出たときバリバリ日本語話してたでしょ」女の一人が思い出した様に口を出す。
「あの?レイナ姫ですよね?」別の女性がレイナに尋ねた。
「はい。レイナ王国第一王女レイナ・フェアリスです。レイナ王国へようこそ」まるで観光キャンペーンのCMの様な口調でレイナがはきはきと答えた。
「一緒に写真撮ってもらっていいですか?」
「ああ、ええとよ。トシヤ、ちょっとシャッターお願いね」レイナは4人からデジタルカメラとカメラ付携帯電話を一台づつ受け取ると、俊弥に渡した。
「なあ?いいのこれ?」俊弥はキャメイに聞いた。
「ええ、いつものことですから」キャメイは特に気にする風も無く言った。俊弥が周りを見るとレイナの護衛が少し離れた位置で鋭い目を光らせていたが、写真撮影を止めに来る気配は無かった。
「えーっと、じゃあ、そのへんに並んで」俊弥はデジカメの液晶ファインダーを見ながらレイナを含む5人に指示を出し始めた。
「あー、こっち側の人、もうちょっと中に寄って」俊弥は手振りで全員がファインダーに収まる様に誘導する。
「じゃ、撮りますよ−、はいチーズ!」まずは1枚、デジカメで撮影。液晶ファインダーで撮れた写真を確認し、次に携帯電話のカメラでもう1枚撮影し、日本からの一行に手渡した。
「ありがとうございます」女性の一人が俊弥に向かって礼を言った。
「あの、あなた日本人なんですか?日本語....」続けて俊弥に尋ねる。
「ええ、見ての通り」俊弥はそう答えた。
「どうして日本の方がレイナ姫と一緒に?」そう聞かれて俊弥は答えに窮した。
どうしてと聞かれても俺にも良くわからないよ。俊弥は心の中でそうつぶやいた。自分がこの島に来た経緯と、昨日からのことを一から話したってどうせ理解してもらえまい。
ミムラさんは、この国の外国人公務員として働いているんですよ」キャメイが助け舟を出してくれた。
「日本の方向けの観光事業のお手伝いと、王室のスタッフを兼務しているんです」キャメイはすらすらと嘘を並べた。
「へえ。いつもレイナ姫のそばに居るんですか?」今度は別の男が聞いてきた。
「そういうわけでも無いですけど、今日は免税店の視察なので観光事業の関係者として同行してるんです」キャメイの舌は驚くほど滑らかだ。
その説明に納得したのかしないのかわからないが、4人はレイナ達に礼を言い、さらにレイナとひとりひとり握手をしてから名残り惜しそうに離れていった。

「やれやれ、なんだいありゃ?」俊弥はどちらにともなく言った。
「だから姫は人気あるって言ったじゃないですか」キャメイが答える。
「いつも一緒に写真とか写ってあげてるの?」
「そんなにいつもってわけでも無いけど。時間があるときはなるべくリクエストには応えてるっちゃね」レイナはそう言いながら無邪気に笑っている。
「だって、どんな奴かもわかんないのに、お姫様の近くに来させるとか危ないだろう。護衛のスタッフが結構ピリピリしてたぜ、写真撮る時」
「観光はこの国の大事な収入源。外国からのお客様にはなるべく喜んでいただく必要がありますから。本当に危ない時は衛兵が飛び出して来ますから」とキャメイが説明する。
「そんなこと言ってもあの距離じゃ....だいたい無防備すぎだよ、レイナは。俺みたいな昨日この島に来たばかりの奴と一緒にいるのだって」
「トシヤは危ない人?」俊弥の言葉を聞いてレイナが悪戯っぽく笑った。
「そうじゃないけど、そういうことを想定して行動するべきって言ってるの」
「ありがとう」レイナはそう言って俊弥の手を包む様に握った。「ちゃんと考えてるよ、レイナは。一応人は見ているし、いつもレイナを守ってくれているスタッフともちゃんと連携して行動してるから。そんなに心配せんで欲しいと」
「あ、まあ、わかったよ」俊弥はしぶしぶうなづいた。
「それにしても本当にレイナはあーいうのに慣れてるんだな」
「どうしてですか」俊弥の言葉にキャメイが聞き返した。
「いや、さっきの写真さ。レイナだけ目線とかポーズとかばっちりでさ。普段から写真撮られなれてるだなって」
「それはそうですよ。定期的にポスターとかの写真も撮ってるし。今度写真集でも出そうかと思ってるんですけど」
「えええええええええええええ」「それ駄目ぇえええ」キャメイの言葉にレイナが顔を真っ赤にして叫んだ。護衛のスタッフに再び緊張感が走った。
「はいはい、冗談ですよ」キャメイは護衛役たちになんでも無いよと手振りで伝えながら、レイナをなだめた。
この子、ちょっと悪魔的だよなー。俊弥はキャメイの様子を見ながらそう考えていた。