GIFT SHOP

チョコレート、紅茶、ブランド物の香水やバッグ、時計、民芸品、タバコ、etc、どこの国に行っても免税店に置いてあるものは大して変わらないものだ。ここレイナ島の外国人向け免税店も、俊弥が過去に訪れた事のある国の免税店と基本的に変わるところは無かった。

「あんまり他所と変わらないね」俊弥は素直に感想をもらした。
「まあ、この辺はそうだと思いますけど」キャメイは笑みを絶やさずに答えた。
「そうそう、何も変わらんから、他にいかんと?」レイナはそんな風に言いながら俊弥の背中を押してきた。誰かにこんな風に背中を押されるのもひさぶりだなと、のんきな感慨にひたっていると、
「駄目ですよ」と今度はキャメイに腕を引かれた。
「こっちに面白いものあるんですから」キャメイはそう言いながら俊弥を店内のあるコーナーへ引っ張っていった。レイナはしぶしぶと言った感じで二人についてきた。

俊弥はすぐにあるものに気がついた。それは店内に壁に貼られたポスターで、写っているのはにっこりと微笑むレイナその人だった。それを見た瞬間には俊弥は特に変にも思わなかった。国よっては王室と国民の距離が近く、王室のメンバーの写真パネルなんかがあちらこちらに飾ってあるところもある。しかし、俊弥はすぐに違和感を覚えた。
「あのポスター.....レイナだよね?」
「です」キャメイが即座に返答した。
「なんてゆーか、アイドルっぽくない?」そう、そのポスターは王室のお姫様というより日本のアイドルのポスター的だった。明るい色合いに、カラフルな衣装とアクセサリ、レイナ自身のポーズ、その姿は日本のアイドルの姿を彷彿とさせた。
「そう撮ってますから」キャメイが楽しそうに答えた。
俊弥が振り返ると、後ろから着いてきていたレイナは、むーっという感じで怒っているのか照れているのか良くわからない顔をしていた。
「他にも色々ありますよ?」キャメイは店の壁や棚に置いてあるポスターや絵はがき等を指差した。見るとどれもレイナの様々な写真をあしらっている。よく見ると「PRINCESS REINA」と表に大きくプリントされたTシャツまで置いてある。
「レイナ姫はこの国の観光大使なんです。外国の方、特に日本からの観光客の方からとても人気があるので、こーいうグッズを作ってみたんですよ?」キャメイが説明した。
「もー、こんな恥ずかしいもの作らんでよかとに...」レイナは自分の写真が入ったグッズ類を眺めながら文句を言った。
「しかし、こんなもの買って行く奴居るの?」俊弥はそう言ってからあわてて付け加えた。「いや、ほら、レイナはかわいいけどさ、他所の国のお姫様の写真とか飾る人ってあんまりいないじゃない」
「姫は日本の方に特に人気なんですよ。去年日本を訪れた時に色々テレビとかにも出演して、なんか日本にはレイナ姫の私設ファンクラブとかあるみたいですよ?姫を見るために日本から訪れる人も結構いらっしゃいますし」
「姫を見るためって.....この国に来たからってそう簡単にお姫様に会えたりしないでしょ?」でも、俺は会ってるよな...俊弥はふとそんなことを考えた。
「定期的に外国からの観光客向けのイベントをやってるっちゃよ。それにレイナは出演しとると」レイナが俊弥の疑問にそう答える。
「今度姫に歌を歌ってもらおうって計画もあるんですよ」キャメイが悪戯っぽくそう付け加えた。
「それはキャメイが勝手に言ってるだけ。そんな恥ずかしい事レイナはやらんけんね」レイナはキャメイを指差しながら強い口調で抗議した。
「イベントってどんなことやるの?」
「この国の観光クイズとかゲーム大会とか、海外から招いたアーティストのライブとか色々と。今度ミムラさんも見に行くといいですよ。楽しいですから」
「とにかくレイナはこの国のためにいろいろ頑張ってるわけだ。凄いね。」
「そ、そんなことなかよ..」レイナは少し恥ずかしそうにうつむいた。
「いや、ほんとに凄いと思うよ。俺がレイナと同じ年のころには国のこととかそんなこと一切考えてない、ただのガキんちょだったし」
「ほんとにそう思うと?」
「ああ」俊弥はレイナの目をまっすぐに見つめながら答えた。
「ありがとう」少しすねたような態度から一転してレイナの顔に笑顔が戻った。
ミムラさんも、一枚買って行きませんか?姫のポスター」二人の様子を見ながらキャメイはそんなふうに声を掛けた。
「あー」俊弥は一瞬躊躇した。実のところ、ちょっと欲しいと思っていたのだ。
「うん、これとかかなりカワイイし、ちょっと欲しいな」
「ちょ、駄目ー」レイナが俊弥を制止するように前に出て両手を広げた。
「いくらなんでも知り合いがレイナのポスター持ってるのは恥ずかしか」
「駄目?」俊弥はちょっとおどけた感じで聞いた。
「駄目!」レイナは口をちょっと尖らせている。
「じゃ、しょうがないか。その代わり、本物をたくさん見たいな」俊弥は軽い口調でそう言ってから、少し恥ずかしくなった。俺はお姫様相手に何なれなれしいこと言ってるんだ?ちょっと調子に乗りすぎだろ。
だがそんな気持ちも次の瞬間には吹き飛んでいた。
「お買い物くらいならいつでも付き合うっちゃよ」レイナは笑顔でそう答えた。そんなレイナの顔を見ながら俊弥はひさしぶりの幸福感に包まれていた。