LUNCH TIME

「お、うめぇ」俊弥はパスタをひと盛り口に放り込むなり、感心した様にうなった。オリーブ油と海老や貝類がふんだんに絡められたパスタを続けて何口も頬張った。
「でしょう?」キャメイが笑顔で返しながら自身はピザを一切れパクリと口にした。
「トシヤ、そんなに慌てて食べなくてもなくならんとよ」レイナが笑う。
俊弥はパスタの塊をごくりと飲み込むと手元のグラスからお茶をごくごくと飲み干した。ウーロン茶に似た感じの中国茶っぽい味であるが、どういったモノなのかは俊弥にはわからなかった。
3人が囲む丸いテーブルの真ん中に、大きなボール上の皿があり山盛りのパスタが海鮮系の具材とともに盛られている。パスタの皿の周りには3種類のピザが配されていた。
なんとなく今日のキャメイの雰囲気からもう少しお洒落な感じの店を想像していたのだが、イタリアンレストランというよりも場末の中華料理屋の様な店だった。
3人のテーブルから少し離れたテーブルでは同行のSP3名が順番に食事を取っていた。

「どうですか?ミムラさん?この島は?」少し食事が落ち着いたところでキャメイが問いかけた。
「え?うーん」キャメイの問い掛けに俊弥は答えに窮した。何しろここに来てまだ2日目である。しかも、着いてそうそうにお姫様だの、経済産業長官を務める10代の天才少女だのに予想もしなかった歓待を受けて面食らっている状態である。とてもこの島についてまともな判断が下せる様な状態では無かった。
「あんまり気にいらんね?」レイナが心配そうに見つめてきた。
まだ出会ってからほんのちょっとだというのに、この子に見つめられるとどうしても調子が狂ってしまう。レイナ、その目は反則だよと言いたかったがいい歳をした大人として10代の少女相手にそんな事を口走るのはなんとなくプライドが許さない。
「そんなことは無いんだけど。まだ昨日来たばかりだし、その、いきなり君達みたいな女の子に会って、なんというか予想外で...」
その言葉を聞いてキャメイはあら?という顔をした。
「私はともかく、レイナのことは日本ではご存知無かったですか?」キャメイがそう言うと今後はレイナがキャメイの方を向いて余計な事を言うなとでも言わんばかりにかぶりを振った。
「レイナ姫の事?」俊弥は何の事かわからずに聞き返した。
「1年前にレイナは日本に行ったんですよ。南の島から来たプリンセスってことでずいぶん日本のマスコミにも取り上げられて。半年前にもう一度日本を訪れた時にはテレビとかにもたくさん出演したらしいですよ?」
「はあ..」正直のところ、ここ何年もあまりテレビはまともに見ていなかった。ネットは毎日見ていたが自分の興味がある話題しか目を通さなかったし。
「レイナはこの国の観光大使なので、こちらにいらっしゃる外国の方向けのイベントなんかにもたくさん出席していて大人気なんですよ?」キャメイがさらに説明する。
「3か月くらい前には日本のテレビ局の方がこちらにいらっしゃって、姫の日常を取材していかれましたけど。おかげでずいぶんこの島の事も日本の方に知られる様になって、観光でいらっしゃる方も増えたんです」
「もう、キャメイ、その話はええと」レイナが少し顔を赤くして話をさえぎろうとした。「この後お暇でしたら外国の方向けの免税店に行ってみませんか?面白いモノが見られますよ?」キャメイはレイナの様子には構わずに続けた。
「だからそれはええと」レイナは少しばかりむくれた様子になった。

「ところでさ」俊弥はそんな様子を見て話題を変えにかかった。
「ふたりとも日本語うまいよね?」
「どこで覚えたの?特にレイナは.....」
「博多!!」俊弥の質問にレイナが単刀直入に答えた。
「博多って....二人とも?」
「いえ、私はハーバード留学中に日本語学習用のテープとビデオで。あとは帰国後にこちらに働きに来てくださってる日本の方とお話しながら実践で」キャメイが訂正した。
「レイナは日本に4年住んでいたと」レイナが説明を続けた。
「日本に住んでた?九州に?」
「姫のお母様は日本の方ですの」キャメイが補足する。
「本当は成人されるまで日本にいらっしゃる予定だったんですが、前国王、レイナのお爺様がお亡くなりになった時に、現国王であるお父様とともにこの国戻られたんですよ?」「日本の方には姫の言葉使いもちょっと人気あるみたいですね」キャメイはそう言って意味ありげに笑った。レイナはその言葉にまたちょっとむくれた様だった。あるいはそれは照れ隠しなのかもしれなかったが。