SHOPPING 2

「あー、そろそろ着くっちゃね」屋敷を出てわずか5分ほどで二人を乗せたリムジンは街のど真ん中に入っていた。
街とは言ってもそれほど建物が密集している感じはなく、緑で覆われた広大な公園の様な場所にまばらにビルが立っている感じである。ほとんどのビルは建設されてさほど年数が経っている様子は無く、ピカピカに光る高層ビルがそれぞれに十分に広い敷地を持って隣り合っている。過去に行ったことのある場所と比べてみると香港島のキレイなビル群がもう少しゆったりとした状態で建っている様な状態だろうか。
そんなビル群のひとつの巨大な商業ビルの前でリムジンは停車した。
レイナと俊弥がリムジンを降りると、リムジンはビルの地下駐車場へと入っていった。
リムジンを降りてから気づいたが、少し離れたところに警備の警官が乗った車が止まり、2名のSPらしき男が降り立って、一定の距離を開けてついて来ていた。さらにSPらしき女性も1名ついてきている。
食堂で王(ワン)が下手のことをするとお付の者に刺されるかもとか言っていたが、マジで気を付けないと....俊弥は少しだけ現実に引き戻された気がした。

そのビルの2階に店はあった。日本にある家電量販店とほとんど同じ様な構成の店で、携帯電話だけでなく、パソコン等の情報機器,TV,DVDといったAV機器,冷蔵庫,洗濯機,そうじ機といった白物家電までほぼなんでも置いてあった。
「最近、これが人気っちゃ」レイナは店の中を歩きながら乾燥機付の洗濯機を指差した。「乾燥機?」
「この島も雨季にはなかなか外に洗濯物干しづらいから乾燥までしてくれる全自動洗濯機が流行っているみたい」
「ふーん。ところでこの島ではTV局とかはいくつくらいあるの?」俊弥は売り場に並べられた大型のTV群を見ながら尋ねた。
「島のTV局は2つしか無いっちゃよ。両方とも国営。でもアメリカのケーブルTVが見られるからあまり退屈はしないと思うっちゃ。でも日本の番組はやってないけど」
「あ、ほら、あそこに携帯電話」レイナは売り場の一角を指差した。

俊弥は売り場に並ぶ端末をざっと眺めて値踏みを始めた。
売り場についている女性の売り子は早速俊弥に向かってお勧めの商品を紹介し始めたが、俊弥の耳には入っていなかった。そもそも早口の英語でまくしたてられても十分には理解できないのだが。レイナはその様子を見て二人の間に割って入った。そして何事か明らかに日本語でも英語でも無い言葉で売り子に何かを伝えていた。
売り子は最初、何この子?という表情をしたのだが、すぐにレイナが誰だか気づいたらしく、慌てて後ろに下がり、後ろでただじっと控え始めた。
「へーえ」俊弥は感心した様につぶやいた。
「なんね?」レイナが尋ねる。
「いや、ホントにお姫様なんだなと思って。販売員のお姉さん、君が誰か気づいてめちゃくちゃ慌ててたぜ。一体何を言ったの?」俊弥は知らずからかう様な口調になっていた。
「決めたら呼ぶから待っててって丁寧に頼んだだけね」レイナは俊弥のからかい口調に気づいたのか、ちょっと頬を膨らませながら答えた。
「そっか、ありがと。そんな顔しないでよ、可愛い顔が台無しになるよ」
それを聞いたレイナはわざと頬をさらに膨らませた後、笑顔に戻った。
「レイナかわいいと?トシヤ、普通のしゃべりかたしてくれるようになったっちゃね」
「あ、いや、ごめん....」俊弥はいつの間にか自分がレイナに対してぞんざいな喋り方になっている事に気づいた。レイナのフレンドリーさについ気が緩んでしまった。
「どうしたっちゃ?レイナとトシヤは友達友達。その調子でいこ?」
「ん、わかった...」そうは言ったものの、少し冷静になると目の前の女の子がお姫様だという事実に引いてしまう自分がいた。こんな調子ではおかしくなってしまいそうだ。とっとと買うもの買って早く帰ろう。俊弥は自分にそう言い聞かせた。


30分後、俊弥は2台の携帯電話を両の手に握って悩んでいた。
適当な端末をスパっと決めてかえるつもりだったのだが、売り子の女性からカタログをもらい、モックアップを見比べ、さらに売り子から説明を聞きながら、迷いに迷っていた。
最初は面白がって色々な端末を俊弥といっしょに物色していたレイナもそろそろ飽きてきていた。
少しに後ろに下がって、別の店員が持ってきてくれた椅子に座って俊弥の様子を見ていた。
「トシヤー」レイナが呼んだ。
「何?」
「もうそれに決めんね」レイナは俊弥が左手に握っているNOKIAの端末を指差して言った。
「それ、レイナのお勧め」
「えっとなんで?」
「レイナの携帯と同じだから」レイナは自分のバッグから今俊弥が持っているのと色違いの電話機を取り出した。
「うーん」
「レイナとおそろいレイナとおそろい」とにかく早く決めさせたいのだろう、レイナは子供の様に俊弥をはやしたてた。
「えっと、じゃあこれにする」俊弥はようやく売り子にそう告げた。